改訂新版 世界大百科事典 の解説
ディクリミナリゼーション
decriminalization
従来犯罪とされてきた行為を非犯罪化し,処罰しないものとすること。刑罰の機能の中心は社会統制であるとし,刑法以外の法的規制(民事・行政制裁など)または法以外の社会規範による統制がふさわしい行為は刑罰の対象からはずすべきであるとの考え方に基づく。非犯罪化の類型として,しばしば挙げられる例は,被害のあることが明白でない犯罪,宗教や倫理に直接結びついている犯罪,刑罰という強制手段で対応するのが過剰または不適切と考えられる犯罪等である。欧米諸国では,性表現に関する罪,同性性交や近親相姦等の性行為に関する罪,堕胎罪,賭博罪,薬物の自己使用や公然酩酊の罪,交通犯罪,軽微な財産犯罪等について,非犯罪化の是非が1960年代から活発に議論され,それらのうちには,実際に非犯罪化されたものもある。日本の刑法典では,わいせつ物領布罪等(175条),単純賭博罪(185条),礼拝所不敬罪(188条),自己堕胎罪(212条)等について,非犯罪化が問題となりうるが,改正刑法草案(1974)は,これらの犯罪を存置するものとしている。なお,ディクリミナリゼーションは,刑罰回避を指向する点で,ディピーナリゼーションdepenalization(非刑罰化),ディバージョンdiversion(司法前処理)と共通する側面をもつ。
執筆者:長沼 範良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報