酩酊(読み)めいてい(英語表記)intoxication
drunkenness

精選版 日本国語大辞典 「酩酊」の意味・読み・例文・類語

めい‐てい【酩酊】

〘名〙 (古くは「めいでい」とも) 過度の飲酒や薬物の吸飲などで、大脳が軽い麻痺を起こし、自己抑制や判断力が低下し、誇大妄想的気分になった状態。酔っぱらった状態。
※万葉(8C後)一七・晩春三日遊覧詩「縦酔陶心忘彼我酩酊無処不淹留
※文明本節用集(室町中)「酩酊 メイデイ 沉酔義也又作茗〔山谷外集〕」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「余程酩酊してゐると見えて鼻持のならぬ程の熟柿臭い香をさせ乍ら」 〔晉書‐山簡伝〕

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デジタル大辞泉 「酩酊」の意味・読み・例文・類語

めい‐てい【××酊】

[名](スル)《古くは「めいでい」とも》ひどく酒に酔うこと。「度を過ごして酩酊する」
[類語]泥酔大酔大酒酔う酔っ払う出来上がる沈酔する乱酔する飲まれるとらになる酒気を帯びる微醺びくんを帯びる酔い潰れるぐでんぐでんべろべろべろんべろんへべれけれろれろ悪酔い酔態酒乱酔眼酔眼朦朧もうろうさか焼けほろ酔い生酔い微酔酔狂酔歩呂律ろれつが回らない千鳥足目が据わるメートルを上げる宿酔二日酔い酔いどれ酔っ払い大虎おおとら

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改訂新版 世界大百科事典 「酩酊」の意味・わかりやすい解説

酩酊 (めいてい)
intoxication
drunkenness

酒に酔うこと,いわゆる酒酔いアルコール飲料を飲用したときに起こる精神身体的変化のことで,医学的には急性アルコール中毒をさし,アルコール飲料に含まれるエチルアルコールが中枢神経機能を抑制することによって起こる。酒酔いに似た酩酊状態は,精神安定剤やシンナーなど,中枢抑制作用をもつ薬剤を使用しても起こるが,これらは薬物酩酊という。

酩酊時にみられる諸症状の発現には,アルコール飲料の量や濃度,飲酒の速度,食物との関係など飲酒状況のほか,アルコールに対する感受性や代謝能力などの個人差が関与し,一律ではない。しかし平均的には血中アルコール濃度とほぼ並行し,血中アルコール濃度は胃や腸からの吸収速度や体内でのアルコール分解速度によって変化する。一般に胃に内容物が多ければ,吸収速度は遅くなる。アルコールの分解は,肝臓にあるアルコール脱水素酵素と中間産物であるアセトアルデヒドの分解酵素によって行われる。これらの酵素の機能は人種や個人によって異なり,かつ遺伝的に支配されている。多くの日本人では,異型アルコール脱水素酵素という,アルコールを分解する速度の速い酵素が多く,一方,アルデヒドの分解については,代謝能力の低いタイプの酵素をもつといわれている。この結果,血中には毒性の強いアセトアルデヒドが早く蓄積され,アセトアルデヒドによる顔面の紅潮,嘔吐,心拍数の増加などの不快症状が早期に現れ,より多量の飲酒が困難になる。一般に日本人が欧米人ほど酒に強くないのは,このためとされている。酩酊に伴う不快症状が翌日まで持ち越される〈二日酔い〉も,このアセトアルデヒドの中毒作用によるとする説が有力である。

 また,アルコール飲料を飲用すると,ときにアルコールの抑制作用とは一見矛盾した興奮様の状態がみられることがある。これは,アルコールによって脳の高位の中枢がまず抑制される結果,皮質下核にある低位の中枢の作用が表出したためである。つまり,日常作用している知的なブレーキが麻痺したことによる,いわば解放された現象であるといえ,アルコールが中枢に興奮的に作用したためではない。

酩酊はその状態によって,普通酩酊(単純酩酊,尋常酩酊ともいう)と異常酩酊に大別される。

 普通酩酊は,飲酒にしたがい,酔いの進行が段階的に進み,軽度の抑制消失から運動・言語障害,さらに睡眠へと移行するもので,いわゆる〈泣き上戸〉〈笑い上戸〉などの区別はあっても,急激な興奮があるとか,状況認識の喪失などを伴わず,後に飲酒時の状況の追想がだいたい可能なものをいう。血中アルコール濃度(通常,血液1ml中に含まれるアルコールのmg数で表す)により,普通酩酊は次の4段階に分けられる。

(1)第1度酩酊 微酔。血中アルコール濃度0.5~1.5mg/ml。いわゆる〈ほろ酔い〉状態で,片足で立つとふらつき,抑制の低下,情緒不安定,注意の散漫化がみられる。自動車運転機能は明らかに低下し,日本では血中濃度0.5mg/ml以上になると〈酒気帯び運転〉として罰則が適用される。なお,電気生理学的な精密検査によると,微細な酔いの現象は0.3mg/mlですでに認められる。

(2)第2度酩酊 軽酔。血中アルコール濃度1.5~2.5mg/ml。興奮期ともいい,他人の迷惑に気づかなくなり,放歌高吟し,気持ちが大きくなる。身体症状としては,歩くとふらつき,舌がもつれ,しゃっくりや嘔吐が現れる。

(3)第3度酩酊 深酔。血中アルコール濃度2.5~3.5mg/ml。論理が支離滅裂となり,泣き上戸,笑い上戸などの状態が現れ,いわゆる〈くだを巻く〉状態となったり,けんかを始めたりする。立っていられなくなり,運動麻痺や言語の障害が現れる。

(4)第4度酩酊 泥酔。血中アルコール濃度3.5~4.5mg/ml。意識を失い,神経反射が消失し,体温は低下する。

 血中濃度4mg/ml以上になると死の危険を生じる。この場合の死因は呼吸麻痺や体温の異常低下(体温調節中枢の麻痺による)であり,ときに吐物の吸引による窒息なども起こる。

 ただし,上記の諸症状と血中アルコール濃度との関係は,アルコールに対する神経系の反応性の高低によって異なり,とくに一口でも異常反応を起こすアルコール不耐性の人などの場合は,血中アルコール濃度は酔いの指標にはならない。

 異常酩酊は,普通酩酊とは異なる経過をとり,酩酊の進行中に突然に興奮状態が出現したりするもので,〈酒乱〉ともいわれる。異常酩酊はさらに複雑酩酊と病的酩酊に分けられ,飲酒時周囲の状況から,その興奮が了解できるものを複雑酩酊,突如として,まったく理解できない興奮や異常言動が起こるものを病的酩酊という。病的酩酊では,その行為無差別,無目的で,もうろう状,せん妄状で,後にまったく行為の追想ができない。異常酩酊は,心身の激しい消耗時にも起こりうるが,基礎素因がある場合や精神身体疾患がある場合が多い。異常酩酊は犯罪に結びつくことが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「酩酊」の意味・わかりやすい解説

酩酊
めいてい
drunkenness
intoxication

軽度の意識障害を伴った一過性の運動興奮状態をいい、普通は飲酒による大脳皮質の軽度麻酔で自己抑制が減退した状態をさす。このほか、カフェインやキニーネなどの薬物あるいは毒物によって引き起こされるものもあり、広義には宗教家や芸術家などのエクスタシーや感情高揚など一過性の興奮状態なども含まれることがある。

[加藤伸勝]

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世界大百科事典(旧版)内の酩酊の言及

【アルコール中毒】より

…そこでアルコール飲用によって起こる精神身体障害は急性アルコール中毒,アルコール依存に大別され,アルコール依存を基礎にしてアルコール精神病alcoholic psychosisが生じるとされる。一方,アルコール飲用に関連して起こる広義の社会的問題,すなわち怠業や酩酊(めいてい)運転などを含む医療問題を超えた福祉や社会政策をも包括するような領域については,〈アルコール関連問題〉という呼び方が提唱されている。〈アルコール関連問題〉を起こす者については,〈アルコール関連障害〉をもつ者といいかえることになる。…

※「酩酊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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