改訂新版 世界大百科事典 「デュマ子」の意味・わかりやすい解説
デュマ[子]
Alexandre Dumas
生没年:1824-95
フランスの小説家,劇作家。父と同名を名のったので,ふつうデュマ・フィスFils(息子)と呼ばれる。私生子として生まれたということが,その思想と作品の根底になっている。処女詩集を発表した後,小説《椿姫》(1848)で一躍流行作家となり,1852年には劇化して大成功を収め,翌53年にはベルディによってオペラ化された。以後,《クレマンソー事件》(1866)など小説も書いたが,役に立つ演劇を標榜して世間の偏見を攻撃し,男女の平等を叫び,子どもの権利を主張して,写実的な手法で多くの劇を書き,劇場に〈人生の断片〉を再現させて,社会・風俗劇のジャンルを確立した。《ドゥミ・モンド》(1855),《金銭問題》(1857),《私生子》(1858),《放蕩親父》(1859),《女たちの友》(1864)などで,第二帝政下と第三共和政初期の成り上がった市民階級の退廃を取り上げ,平凡な心理を日常的な散文ではあるが機知に富んだ情熱的な台詞(せりふ)で巧みに表現したので,1作ごとに話題になった。他の作家との共作や,変名を使って発表した作品もかなりあり,《離婚問題》《父性研究》(ともに1880)などの時事問題に関する小冊子や評論も多い。74年にアカデミー・フランセーズの会員に選ばれている。
執筆者:高木 進
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報