トリー・キャニオン号事件(読み)とりーきゃにおんごうじけん(英語表記)Torrey Canyon incident

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

トリー・キャニオン号事件
とりーきゃにおんごうじけん
Torrey Canyon incident

1967年3月18日、リベリア船籍のタンカー、トリー・キャニオン号(11万8285重量トン)がペルシア湾から原油を積載してイギリスミルフォード・ヘブンに向けて航行中、英仏海峡の西端のシリー諸島とランズ・エンドの間の公海上で座礁し、船体から流れた油によってイギリスのコーンウォール海岸およびフランスのブルターニュ海岸を汚染した事件。イギリスは、洗浄剤散布などにより防除作業を行ったが、船体に残る油を燃焼するため、海空軍の爆撃機によって船体を爆破した。この事件は、それまでの海事史上未曽有(みぞう)の油濁事故であり、事件後、政府間海事協議機関(現・国際海事機関)において、油濁事故に関する法的技術的問題が検討された。

[水上千之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

トリー・キャニオン号事件
トリー・キャニオンごうじけん
Incident of the Torrey Canyon

リベリア船籍の 12万tタンカー『トリー・キャニオン』号が 1967年3月 18日イギリスのコーンウォール半島ランズエンド岬とシリー諸島との間の海上で座礁し,原油約6万tが流出,イギリス,フランス両国海岸を汚染し,甚大な被害を与えた海難事件。同船はクウェート産原油を満載し,ペルシア湾からイギリスに向け航行中であった。この事件は大型タンカーによる油濁事故の恐ろしさを世界に認識させ,その油濁事故規制と油濁責任についての国際条約成立契機となった。

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世界大百科事典(旧版)内のトリー・キャニオン号事件の言及

【油汚染】より

…防止対策はIMCO(イムコ)(現在のIMO)で検討され,54年には〈油による海水の汚濁の防止のための国際条約〉が成立した。さらに67年3月,イングランド南西沖で座礁し約7万tの原油を流出したトリー・キャニオン号事件は,国際的な油汚染に対する法制度の整備をさらに促すきっかけとなった。日本でも,67年〈船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律〉が制定されたのを初めとし,さらにIMCOが国際条約を改正したのに伴って,70年には〈海洋汚染防止法〉が制定され,その規制が強化された。…

【海難】より

…船舶の航行に関連して,船舶,積荷,人命が海上において遭遇する危険な状態をひろく指称する。海難審判法(1947公布)では,次のいずれかに該当する場合に,海難が発生したものとしている(2条)。(1)船舶に損傷を生じたとき,または船舶の運用に関連して船舶以外の施設に損傷を生じたとき,(2)船舶の構造,設備または運用に関連して人に死傷を生じたとき,(3)船舶の安全または運航が阻害されたとき。なお,商法に規定のある海難救助制度(800~814条)のもとでの海難とは,船員が自力をもっては克服することができない程度の海の危険をいうと,学説・判例で考えられている。…

【海洋汚染】より

…海洋を汚染するおもなものは,陸地からの汚染物の流入,大気浮遊塵の落下,タンカーその他の船からの廃棄物の放出などであるが,最近は,火力発電所や原子力発電所の温排水による沿岸海域の熱汚染,陸上原子力施設,原子力船からの放射性廃棄物の放出による海洋の放射能汚染などが憂慮されている。大気中に放出された汚染物質も,降水によって直接海面に落下するほか,陸上の河川を経て海洋に流れ込むので,終局的には海洋が多くの廃棄物の集積場ともなりかねない。…

【油濁損害賠償保障法】より

…〈油濁損害に対する民事責任に関する国際条約〉(1969),と〈油濁損害の補償のための国際基金の設立に関する条約〉(1971)を批准し,これを国内法化するための法律である。1967年に英仏海峡において発生したトリー・キャニオン号事件(海洋汚染)は,巨大なタンカーによる油濁事故の重大性を世間に認識させ,両条約が成立した。その後,1992年に両条約を改正する議定書が採択され,日本はこれを批准して,本法の必要な改正を行った。…

※「トリー・キャニオン号事件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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