翻訳|tanker
槽船ともいう。液体貨物を船倉にばら積みして運搬する船の総称。タンカーの運ぶ貨物は原油,燃料油,石油精製品,液化石油ガス(LPG),液化天然ガス(LNG)および化学薬品が主体であるが,このほかブドウ酒,糖みつ,魚油,植物油,あるいは水を運ぶこともある。一般にタンカーといえば液体石油類を運ぶ油送(槽)船(オイルタンカー)を指すことが多い。
原油を産地から精油所まで多量に運搬する原油タンカーのことであるが,精油所から燃料など石油精製品を需要地まで沿岸沿いに運ぶプロダクトキャリアをオイルタンカーに含めることもある。前者は一度に多くの油を運ぶほうが経済的なため,できるだけ大型船が望ましいが,港や航路の水深の制限があり,6万~28万トン程度の船が多い。原油を石油備蓄基地まで大型船で運び,そこからは中・小型タンカーで需要地まで運ぶ方式も取られている。プロダクトキャリアは重油や粗製ナフサなどを積むダーティープロダクトキャリアと,軽油,灯油,ガソリン,航空燃料油などを積むクリーンプロダクトキャリアに分けられる。前者は原油タンカーとほとんど同じ構造をしており,厳密に分類することがむずかしい場合もあるが,後者は材質や塗装などに特別な処置がしてあり,2万~3万トン程度の中・小型船が多い。
タンカーの配置は船尾部に機関室と居住区を配し,そこから前方の大部分をタンクとしている。以前は居住区が船の中央にあったが,安全上の考慮などで今はすべて後部にある。貨油ポンプ室と燃料タンクを機関室と油タンクの間に配置し,油タンクの漏洩(ろうえい)が生じても安全なように考えてある。油タンク部は一般に2列の縦隔壁と4~8枚の横隔壁でくぎられ,それぞれが独立タンクとなっており,そのうちのいくつかがバラスト槽として使われ,残りが油タンクとして使われる。かつてはバラスト水は油を陸揚げした後の油タンクにも入れていたが,海洋汚染防止のため今はすべて専用バラスト槽だけに入れることが義務づけられている。船体構造は一部小型船を除き縦肋骨構造が用いられており,船底,外板,甲板はすべて単板であるが,油が流出しにくい2重底,あるいは2重外板構造も一部採用され始めている。油の荷役のためタンク内と上甲板上に数本の貨油管が走っており,ポンプ室のポンプと各タンクに接続している。陸とは上甲板中央部のマニホールドで特殊なジョイントを通して結ばれ,ポンプで荷役される。通常一昼夜で荷役は終了する。
LPGタンカーはガスを加圧,または冷凍して液化し,保冷されたタンクで運ぶもので,外面を防熱した鋼製のタンクを船倉内におく独立タンク方式,船体を二重構造として,その内面に施した防熱材の内側の金属薄板で液を保持するメンブレン方式などがある。8万m3程度まで運べるものがつくられている。LNGタンカーはLPGよりさらに低温(-161.5℃)にして液化して運ぶもので,独立タンク式,メンブレン式,セミメンブレン式などの構造様式があり,材料としてはアルミニウム,ニッケル鋼,ステンレス鋼などが用いられる。13万m3程度まで運べる。ケミカルタンカーは化学薬品などを運ぶもので,荷物の危険度と性質によってタンクの材質,塗装および構造にいろいろな考慮をしてつくられる。2重底をもったり,ステンレス加工をした船が多いが,船型としては4万トンクラスが多い。
かつて油は樽に詰めて運ばれていたが,運搬効率を上げようと1885年船体自身をタンクとしたグリュックアウフGlückauf(ドイツ。2307トン)がつくられた。これは現在のタンカーの原型をしており,タンカーとして登録された最初の船となった。その後1908年J.W.イシャウッドにより縦肋骨方式が確立され,現在まで基本的にこの構造が用いられている。日本でタンカーとしてつくられたのは,1907年の虎丸(513トン)が最初である。
タンカーは第2次世界大戦前までにしだいに大型化し,1万~1万3000トンが標準となった。さらに第2次大戦後,50年代になって急速に大型化時代に入り,スーパータンカー,マンモスタンカーの名称も冠せられ,76年には55万トンを超えるものまで出現した。しかし,1973年のオイルショックにより巨大化にはブレーキがかけられ,現在では省エネルギー,省人化,自動化を採用した中型のものが主流を占めるようになっている。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
液体貨物を船体と一体のタンクに積んで運ぶ船の総称だが、原油を輸送する船が圧倒的に多く、他の貨物を運搬する船は積み荷によって、液化ガスのLPGタンカー、LNGタンカー、液状化学製品のケミカルタンカーなどという。また、セメントばら積船は構造や外観が似ているので、セメントタンカーとよぶことがある。
第二次世界大戦以前の油タンカーは、大きなものでも載貨重量1万5000トン程度であった。戦後、石油需要の増大とともに大型化が始まり、1960年ごろから急速に進んだ。載貨重量トン数で20万トンから30万トンの油タンカーをVLCC(very large crude oil carrier)、それ以上をULCC(ultra large crude oil carrier)とよぶ。最大級のものはフランスのバチラス号(1976建造、55万0001重量トン)、ピエール・ギョーマ号(1977建造、55万5031重量トン)の2隻と、リベリア船籍のシーワイズ・ジャイアント号(1980建造、56万4763重量トン)がある。これらは、二度にわたる石油ショックを経て船舶の大型化が沈静した現在では、当分破られることのない記録であろう。
タンカーは船尾の上甲板下を機関室とし、上甲板上に居住区や船橋を配置し、その前方を貨物油タンクとしている。油タンカーの衝突や座礁による原油流出事故の教訓から、タンク1個当りの容積を制限することや、浸水しても沈没しがたい船とすることなどが国際条約として取り決められている。また、タンカーが運ぶ原油や化学製品には引火、爆発、腐食などの危険性が多いから、それぞれの特性に応じてタンクの構造、荷役装置、通風装置などには特別の考慮が払われている。荷役やタンクの洗浄の際には静電気が蓄積されて爆発の危険性が高くなることがあり、火の使用や金属の摩擦による火花の発生などにつき船内の生活においても細心の注意が必要になる。
[森田知治]
1989年3月に起きた巨大タンカー(エクソン・バルディス号)の原油流出事故による環境破壊は深刻なものであった。それを受けて、IMO(国際海事機関)では、新造のタンカーに対してダブルハル(二重船殻)構造を義務づけ、2015年以降はシングルハル構造のタンカーの航行を禁止することを決定した。
[編集部]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 1960‐65年は,設備の大型化,合理化を進めた時期である。1956年後の輸出船ブーム時以降に輸出された船が日本船の評価を高め,VLCC(very large crude oil carrier,20万トン以上),ULCC(ultra VLCC,30万トン以上)などタンカー建造などに用いられる大型ドックのような大型新鋭設備の建設が進められた。一方では,大幅な生産性向上を可能とする合理的な建造法,ブロック建造工法,電子罫書(けがき)法,先行艤装などが導入され,世界のシェアの過半数を占めるに至った。…
※「タンカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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