日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドゥイノの悲歌」の意味・わかりやすい解説
ドゥイノの悲歌
どぅいののひか
Duineser Elegien
ドイツの詩人リルケ晩年の詩的到達点を示す作品。10編よりなる。1912年1月アドリア海沿岸のドゥイノの館(やかた)で一部分が生まれたのち徐々に書き継がれ、22年2月スイスのミュゾットの館で全編が完成する。悲歌の伝統につながる預言者的な調子をも備えた一種の思想詩。人間存在の普遍的な意味、皮相な近代の社会における生のあり方、この時代の詩人の任務、これらへの問いかけと答えの試みが、緊迫したリズム、緊密な語法、大胆な形象のうちに、複雑に絡み合って展開する。前半は、絶対の存在である天使との対比で、人間の無力・無常さを否定的に強調するが、第七の悲歌以降、地上の生の営みが肯定され、ことばによって事物を変容させ内面化することが人間の使命とされる。第10の悲歌は神話的空間へと開かれて終わり、悲歌完成直後一気に書かれた『オルフォイスへのソネット』の「世界内面空間」へとつながってゆく。
[檜山哲彦]
『手塚富雄訳註『ドゥイノの悲歌』(岩波文庫)』