ドラギ(読み)どらぎ(英語表記)Mario Draghi

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドラギ」の意味・わかりやすい解説

ドラギ
どらぎ
Mario Draghi
(1947― )

イタリアの経済学者、銀行家、政治家。ローマ生まれ。第3代ヨーロッパ中央銀行ECB総裁、第67代イタリア首相ギリシアに端を発したヨーロッパ債務危機時の2011年にECB総裁に就任し、ユーロ国債の無制限購入策(Outright Monetary Transactions:OMT)やマイナス金利政策を打ち出し、ユーロ危機を封じ込めた。この実績から「ユーロの救世主」「スーパーマリオ」などの愛称がある。新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)が広がった2021年には、イタリア首相につき、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う危機の克服のほか、冷え込んだ経済の復興、財政再建などイタリア政治の舵(かじ)取り役を任された。

 15歳で両親を亡くしながら、ローマ・ラ・サピエンツァ大学で経済学士、マサチューセッツ工科大学MIT)で経済博士号(Ph.D.)を取得。フィレンツェ大学教授、世界銀行理事、イタリア財務省長官、ゴールドマン・サックス副会長、イタリア中央銀行総裁を歴任した。財務省長官時代にはテレコム・イタリアなど国有企業の民営化を手がけた。2011年にECB総裁につき、ユーロ債務危機に対し「(ユーロを守るためには)なんでもする」(2012)と宣言。直後にヨーロッパ連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の財政再建プログラムに従う限り、ユーロ圏の国々から残存期間1~3年の国債を無制限で購入する金融緩和プログラム(OMT)を表明し、危機の火消しに成功した。危機後も低インフレの長期化、銀行資産の縮小、ユーロ高などが懸念されたため、2014年に主要国の中央銀行で初めて、指標となる預金ファシリティ金利にマイナス金利を導入。2014年から民間貸出実績を基に長期資金を低利で貸し出す制度(Targeted Longer-Term Refinancing Operations:TLTRO)を導入し、2015年からは段階的に国債や政府機関債、地方債、社債などを購入する大規模資産買入れ策を実施した。こうした非伝統的金融政策には、ECB内部で反対意見もあったが、強力なリーダーシップで大多数の支持をとりつけて断行。その交渉手腕と調整力は「ドラギ・マジック」と高く評価された。ECB総裁退任(2019)後は、ほとんど公の場に姿をみせなかったが、新型コロナウイルス感染症の大流行で混乱するイタリア政治・経済の救世主としてイタリア大統領マッタレッラSergio Mattarella(1941― )が2021年に首相に指名。新型コロナウイルス感染症対策を優先する挙国一致内閣の組閣に成功した。敬虔(けいけん)なカトリック教徒であり、親EU派、国際協調派、環境重視派としても知られる。

[矢野 武 2021年7月16日]

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