1970年代前半に活動したドイツのロック・グループ。もともとはクラウス・ディンガーKlaus Dinger(1946―2008、ドラム、ギター、キーボード、ボーカル)とミヒャエル・ローターMichael Rother(1950― 、ギター、ピアノ)の2人を中心とする、ジャーマン・プログレッシブ・ロック・シーンから登場したユニット。ソリッドな反復ビートを軸にするラディカルなサウンド・スタイルは、1970年代後半の英米パンクやニュー・ウェーブや1980年代前半のノイエ・ドイチェ・ベレ(ジャーマン・ニュー・ウェーブ)などにも強い影響を与えた。
10代前半にペーター・ブロッツマンPeter Brötzmann(1941―2023、サックス)などのフリー・ジャズに魅せられてドラムを始めたディンガーは、ビートルズとの出会いによってロックに転向し、ノーやスマッシュ等のロック・バンドを経て、1970年、結成されてまもないクラフトワークにドラマーとして参加した。クラフトワークのデビュー・アルバム『クラフトワーク1』(1970)のリリース後、新メンバー(ギタリスト)として加入したのが、ザ・スピリッツ・オブ・サウンドというバンドにいたローターであったが、2人は、クラフトワークのセカンド・アルバム『クラフトワーク2』(1971)の制作途中にバンドを脱退し、1971年に新たにバンドを立ち上げた。それが、ドイツ語で「新しい」を意味する「ノイ」である。
2人はクラフトワークをプロデュースしていたコニー・プランクConny Plank(1940―1987)と組んで、1972年にデビュー・アルバム『ノイ!』をブレーン・レーベルから発表。スネア・ドラムとエレキ・ギターのカッティングによる単純で機械的な反復ビートと、テープ操作によるサイケデリックな音響は、クラフトワークでの活動から得たインスピレーションを、よりミニマル・ミュージック的に発展させたものであった。その方向性は、1973年のセカンド・アルバム『ノイ!2』および、ハンス・ランペHans Lampe(1952― )とクラウスの弟トマス・ディンガーThomas Dinger(1952―2002)が加わって4人組となり発表した1975年のサード・アルバム『ノイ!75』でさらに強まる。しかしここでローターは脱退し、残った3人は新たにラ・デュッセルドルフを結成した。ラ・デュッセルドルフのサウンドは、ノイ!の機械的な反復ビートという基調はそのままであるが、アンサンブルがより色彩豊かになり、全体に開放的かつポジティブな世界を描き出したものとなっている。楽曲展開上のありきたりな起承転結を排し、音響そのものの強度と快楽を追求するノイ!やラ・デュッセルドルフのミニマルかつソリッドなサウンド・スタイルは、後のパンクやニュー・ウェーブを先取りしたものであり、また、1980年代のインダストリアル・ロックや1990年代以降のテクノの源泉の一つともいえる。実際、彼らはセックス・ピストルズやパブリック・イメージ・リミテッド(PIL)で活動したジョニー・ロットンJohnny Rotten(1956― 、ジョン・ライドンJohn Lydon)など多くのパンク・ミュージシャンたちに多大な影響を与えた。また、ブライアン・イーノも強い影響を受けた一人であり(イーノは、ボブ・マーリィとフェラ・クティとノイ!こそが1970年代最高のビートであると絶賛した)、その影響は、彼がプロデュースしたトーキング・ヘッズの傑作として名高い『リメイン・イン・ライト』(1980)からもうかがえる。
ラ・デュッセルドルフは、『ラ・デュッセルドルフ』(1976)、『ビバ』(1979)、『個人主義』(1981)の3枚のアルバムを発表後、自然消滅したが、クラウス・ディンガーはその後も、1980年代にはネオンディアン、1990年代以降は「ディー・エンゲル・デス・ヘルン」や「ラ!・ノイ?」などのユニットを率いて、同じ方法論によるサウンドを究めた。
[松山晋也]
『パスカル・ビュッシー著、明石政紀訳『クラフトワーク 〈マン・マシーン〉とミュージック』(1994・水声社)』▽『明石政紀著『ドイツのロック音楽 またはカン、ファウスト、クラフトワーク』(1997・水声社)』▽『ヴォルフガング・フリューア著、明石政紀訳『クラフトワーク ロボット時代』(2001・シンコー・ミュージック)』
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