日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミニマル・ミュージック」の意味・わかりやすい解説
ミニマル・ミュージック
みにまるみゅーじっく
minimal music
音素材をミニマル(最小、極小)に切り詰めて扱う音楽、とくに1960年代から1970年代のアメリカの長い持続音や反復による音楽をさす。1970年代に美術用語の「ミニマル・アート」が現代音楽に転用されてからこの名が定着した。しばしば反復を執拗(しつよう)に繰り返すため「反復音楽」ともよばれる。一般的にはラ・モンテ・ヤング、ライリーTerry Riley(1935― )、ライヒ、グラスとその周辺のアメリカ人作曲家の一群による音楽のことをさすが、オランダのアンドリーセンLouis Andriessen(1939―2021)、エストニアのペールトArbo Pärt(1935― )など一部のヨーロッパの作曲家も「ミニマル」と形容されることがある。
長いドローン(持続低音)、規則的なパルス、短い音型などシンプルな素材、調性的、旋法的な要素を用いるのが特徴で、そこにはインドやアフリカなどの民族音楽やジャズの影響も認められる。ミニマル音楽は新しいタイプの調性音楽であり、その意味では無調の前衛音楽に対するアンチテーゼということもできる。単純な形態、音の静的な配列、漸次的な変化に基づく音楽であり、クライマックスや終結のないエンドレスな感覚をもたらす構成をとることが多い。劇的な要素を避けたクールな表現スタイルは、音そのものを感覚的にとらえ、プロセスを体験するという新しい聴取のあり方をもたらした。
1970年代後半以降は、個々の作曲家が多彩な表現形態をとるようになっており、単にミニマルとして括(くく)ることはできなくなっている。また、ジョン・アダムズ以降の若い世代の作曲家は、反復的なスタイルのなかに多様な要素や伝統的な語法を持ち込んでおり、こうした方向は「ポスト・ミニマル」とよばれている。
[柿沼敏江]
『ウィム・メルテン著、細川周平訳『アメリカン・ミニマル・ミュージック』(1985・冬樹社)』▽『小沼純一著『ミニマル・ミュージック』(1997・青土社)』▽『E・ストリックランド著、柿沼敏江・米田栄訳『アメリカン・ニューミュージック――実験音楽、ミニマル・ミュージックからジャズ・アヴァンギャルドまで』(1998・勁草書房)』▽『柴俊一編『アヴァン・ミュージック・ガイド』(1999・作品社)』▽『Edward StricklandMinimalism ; Origins(1993, Indiana University Press)』▽『Keith PotterFour Musical Minimalists ; La Monte Young, Terry Riley, Steve Reich, Philip Glass(2000, Cambridge University Press)』