改訂新版 世界大百科事典 「ノガイ族」の意味・わかりやすい解説
ノガイ族 (ノガイぞく)
Nogaitsy
ロシア連邦,北カフカスの南部に住む民族。キプチャク・ハーン国を構成したトルコ系・モンゴル系遊牧民の末裔で,人口7万3700(1989)。チュルク語系のノガイ語を話し,宗教的にはイスラムのスンナ派に属する。13世紀後半,ジュチ・ハーンの曾孫のノガイは,ドン,ドナウ両川間の広大な地域に勢力を扶植したが,彼の子孫エディギュ(エディゲイ)は14世紀末~15世紀初めに事実上の独立国家ノガイ・オルダ(ノガイ・ハーン国)を建て,主都をヤイク川下流のサライチク(サライジュク)に置いた。アラル海とカスピ海北方の草原の中枢を占めて,盛んに商業活動を行い,16世紀にはモスクワとカザンに毎年数万頭の馬,羊を出荷した。16世紀後半,カザン,アストラハンの両ハーン国滅亡後は,大ノガイ,小ノガイ,アルティウルの3オルダに分裂。1634年モンゴル系のカルムイク族の侵入により,ボルガ川左岸を失って右岸に移り,その後も南方に追いつめられた。そして18世紀末から19世紀初めにかけて,ノガイ族の一部はロシアの支配を受け入れ,一部はトルコ領に移住した。彼らは1917年の革命までは遊牧民であったが,現在ではほとんどが定住して,牧畜や農耕に従事している。彼らの伝える《エディゲイ》は,15世紀前半につくられた叙事詩で,エディギュとキプチャク・ハーンのトクタミシュとの戦いをうたいあげており,チュルク語系の諸族の間で,広く民族的遺産として語り継がれている。
執筆者:北川 誠一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報