NTSC方式(読み)えぬてぃーえすしーほうしき(英語表記)NTSC system

日本大百科全書(ニッポニカ) 「NTSC方式」の意味・わかりやすい解説

NTSC方式
えぬてぃーえすしーほうしき
NTSC system

地上アナログ放送で使われたテレビジョン方式の一つ。アメリカのテレビジョン方式検討委員会National Television System Committeeが1952年に提案したカラーテレビジョン方式である。アメリカでは1950年1月から1953年12月まで、コロンビア放送会社CBSが実用化したCBS方式をカラーテレビジョンの標準方式として採用していたが、フリッカー(画面がちらちらする現象)が多いこと、白黒テレビジョンとの両立性がないなどの理由で廃止され、1953年にアメリカの連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)はこのNTSC方式を標準方式として採用した。日本では1957年(昭和32)に設置されたカラーテレビ調査会の答申に基づき、1960年に郵政省(現、総務省)がNTSC方式をカラーテレビジョンの標準方式に決定した。

 この方式の特長は、白黒テレビジョン信号の占有帯域と同じ帯域内にカラーテレビジョンの信号を収めることができ、しかも既存の輝度信号に妨害を与えない点にある。輝度信号のスペクトルは映像信号の存在する周波数帯(0~4.5メガヘルツ)全域にわたり連続的に分布するのではなく、水平走査周波数(15.75キロヘルツ)の間隔で分布している。カラー信号のスペクトルは、この輝度信号のスペクトル分布のすきまにうまく挿入されている。目に見えるすべての色は、赤・青・緑の三原色光を適当な割合で混ぜ合わせれば得られ、しかも、人の目の識別する性能は、大きな像を表す場合のみ三原色が必要で、小さい像では2色のみで十分であること、さらに像の細部については輝度のみ感じ、色は灰色と区別できなくなってしまうことが知られている。

 NTSC方式はこのような目の性質を巧みに利用しており、比較的識別しやすい赤オレンジ系と青緑系の色成分(I信号という)は1.5メガヘルツの帯域、比較的大きな面積でしか識別できない黄系と紫系の色成分(Q信号という)は0.5メガヘルツの帯域であり、このI信号とQ信号の二つで色副搬送波3.579545メガヘルツを変調して放送している。NTSC方式は種々の優れた特長をもっているが、テレビジョン信号を伝送する場合の中継機器には、他の方式より厳しい特性が要求される。

 1940年代から使われてきた白黒テレビジョンとの互換性を保つため、白黒テレビジョンで決められた基本規格がそのまま引き継がれた。おもなものは、画面の横と縦の比は4対3、走査線数は525本で2対1のインターレース(飛び越し走査)を採用、フレーム数(1秒当りの画面数)は30フレーム、などである。

 NTSC方式以外にアナログ放送に使用されたカラーテレビジョン方式に、PAL(パル)方式とSECAM(セカム)方式がある。これらについては、各項目を参照されたい。

 NTSC方式が実用化された当初にこれを採用した国は、アメリカ、日本、カナダ、フィリピン、韓国、台湾、ブラジルを除く中南米諸国などであった。テレビ放送のデジタル化に伴い、1990年代末から各国は相次いで地上デジタル放送への移行を進めた。NTSC方式を採用していた諸国の地上デジタル放送への移行は、二つの規格に分かれた。アメリカ、カナダ、韓国などでは、ATSC(Advanced Television Systems Committee、高度化テレビジョンシステム委員会)方式とよばれる規格を採用した。一方、日本、フィリピンではISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial、統合デジタル放送サービス‐地上用)方式とよばれる規格を採用し、また多くの中南米諸国ではISDB-Tに多少の変更を加えた国際版を採用した。地上デジタル放送への移行が完了した後、数年の猶予期間を経てNTSC方式のアナログ放送は停波(電波の放出を停止すること)される。アメリカでは地上デジタル放送の開始が1998年12月、アナログ放送の停波が2012年10月である。また日本では地上デジタル放送の開始が2003年(平成15)12月、アナログ放送の停波が2012年3月である。NTSC方式の規格は、ビデオテープ、ビデオディスク、DVDなどのビデオパッケージに用いられており、これらのビデオパッケージはアナログ放送終了後も利用されている。

[木村 敏・金木利之・吉川昭吉郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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