ハシーシュ
ḥashīsh[アラビア]
hashish
大麻をいい,ハシッシュとも呼ぶ。原義は〈草〉。13世紀ころエジプトに入ってきたもので,酒がイスラム教徒には厳禁されたのに対し,ハシーシュは現実には許容されたため,とくにエジプトではケイフ(嗜好物)として労働大衆の間に広まった。ハシーシュを長期間常習すると,さまざまな健康障害を起こすといわれるが,禁断症状などはなく,食欲が増進し,聴覚・視覚が鋭敏化(人によってはその逆もある)したり,その効果には個人差がある。ハシーシュが酒と異なる点は,それを喫煙する(飲物に溶かして飲むのは危険である)者の意志に従って,弛緩と緊張のいずれにも効果がある点である。緊張への意志をもって喫すれば,集中力をかなり高めることができるので,ハシーシュが禁じられず廉価であった時代には,腕のよい職人を育てたといわれる。またエジプトの農村部では,女子の割礼が行われており,性生活において男性が性的持続力を要求されるが,この点においてもハシーシュは大きな効力を発揮する。そのため法律で禁止された現在でも,ハシーシュは根絶されることなく残存している。ハシーシュ禁止令は,農村部女子の割礼廃止とが同時に行われないかぎり効を奏さぬといわれ,その処置はエジプトの今後の課題となっている。ハシーシュは紙巻タバコの中に混入させて喫煙したりもするが,ムアッサルという蜜を混ぜたタバコの上に載せ,ゴーザという水ぎせるで吸うのが一般に好まれている。19世紀にカイロを訪れたE.レーンが書いているようにはマクハー(コーヒー店)でハシーシュは今はもう売られてはいないが,グルザという特殊な茶屋があり,そこでは今でもハシーシュが喫煙されている。ちなみにアサッシンの名はハシーシュに由来している。
→大麻(たいま)
執筆者:奴田原 睦明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内のハシーシュの言及
【タイマ(大麻)】より
…【堀田 満】
[大麻中毒]
大麻依存症のこと。成熟したタイマの雌株の花序と上部の葉から分泌されるこはく色の樹脂を粉にしたものをハシーシュhashishと呼ぶが,栽培したタイマの花序から採ったものをガンジャganja,野生のものの花序や葉から採ったものを[マリファナ]marihuana(ブハングbhang)といい,後者ほど精神作用が弱い。一般にはこれらを大麻と総称する(1961年のWHOの大麻に関する用語統一による)。…
【幻覚薬】より
…現在,幻覚薬の作用をもつとして知られている植物はほぼ100種にのぼり,その多くは新大陸で最近になって発見されたものである。ただし旧大陸においてもヨーロッパのマンドレークmandrake(Mandragora officinarum,ナス科)や熱帯アフリカのイボガiboga(Tabernanthe iboga,キョウチクトウ科),中近東の[ハシーシュ](Cannabis sativa,クワ科),シベリアのベニテングタケ([テングタケ])など,いくつかの植物が知られている。新大陸では,メキシコのオロリウクイ,聖なるキノコ(シビレタケ属,ヒカゲタケ属,モエギタケ属などに属するキノコ),サボテンの1種であるペヨーテ,北アメリカから南アメリカにかけて用いられるナス科のダツラDatura属やソランドラSolandra属の植物,アマゾニア地方で用いられているヤヘーyajé(Banisteriopsis caapi,B.inebriansなど,キントラノオ科)やマメ科のアナデナンテラAnadenanthera属,ニクズク科のビロラVirola属の植物がある。…
【興奮薬】より
…また色彩感覚,音感等が異常に鋭敏となる。インドタイマの使用は日本では法的に禁止されているが,アメリカではマリファナと呼ばれ,また分泌樹脂の乾燥物は[ハシーシュ]と称してタバコなどに混じて吸入される。通常マリファナタバコなどの1回量として吸入されるテトラヒドロカンナビノールの含量は2.5~5mgといわれ,この量で気分が高揚し,多幸感,解放感を生ずる。…
【タイマ(大麻)】より
…前20世紀には中東地域で栽培され,紀元前にヨーロッパや中国に伝わった。とくに中東では[ハシーシュ]の名で広く知られる。日本には中国から渡来したとされ,弥生時代にはすでに栽培されていたらしい。…
※「ハシーシュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」