改訂新版 世界大百科事典 「ハマープロ」の意味・わかりやすい解説
ハマー・プロ
Hammer Film Productions
怪奇映画の代名詞にすらなっているイギリスの映画会社。その製作内容は,怪奇映画のみならず,時代物(コスチューム・プレイ),SF,戦争映画,推理物など多種多様である。主流は,いわば伝奇物で,それが怪奇・恐怖寄りの方向でヒットしたといえるだろう。1934年にウィリアム・ハインズが,パートナーのエンリック・カレラスとともに,アマチュア俳優当時の芸名ウィル・ハマーから名をとったハマー・プロ(および配給会社のエクスクルーシブ・フィルムズ)を設立した。しかし1937年までに4本を製作するにとどまった。
本格的にスタートしたのは,第2次世界大戦後の47年からで,71年以降,ハマー・プロの社長となったマイケル・カレラスは,エンリック・カレラスの孫である(それ以前は製作,演出などを担当)といったふうに,同族会社的カラーが強い。代表作としては,《原子人間》(1955)に始まる怪奇SF三部作《クォーターマス博士》シリーズ,《フランケンシュタインの逆襲》(1957)に始まる初のカラー版のどぎつさが売物の《フランケンシュタイン》シリーズなどがあるが,このマイナー・プロダクションの名を一躍高からしめたのは,《吸血鬼ドラキュラ》(1958)に始まる《ドラキュラ》シリーズで,ドラキュラ役のクリストファー・リー,ヘルシング博士役のピーター・カッシングの〈宿敵コンビ〉の対決が見もの,売物となった。ハマーの代表的な監督として,バル・ゲスト,テレンス・フィッシャーらがいる。《凶人ドラキュラ》と《白夜の陰獣》(いずれも1966)で,同じセットを使い回すといったぐあいのローコスト(低額予算)製作で,後期になるにつれて,ヌードの女性をモンスターが襲うといったエロ・グロ志向が強くなった。
1970年後半から経営不振に陥り,事実上の倒産状態となったが,ハマー・プロを離れてコメディーなどを撮っていた監督のブライアン・ローレンスとプロデューサーのロイ・スケッグスの2人が,ハマー・プロの存続をはかるべく,新スタジオで,1時間13話のTVシリーズ《悪魔の異形》(1980。日本では1984年にフジテレビで放映)を製作した。その後も単発のTV映画を不定期に作っている。
執筆者:森 卓也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報