「裸体」のこと。しかし裸体といわずにヌードという以上、裸体になんらかの芸術的ニュアンス、あるいは人体への審美的要素を加えた概念からであると考えてよかろう。すなわち、裸体の造形表現である裸体画や裸身像を一般にさすが、裸体の造形性の美しさやエロティックさをパフォーマンスした場合の人体そのものをも、ヌードとよんでいる。
こうした裸体の造形表現は、原始美術ですでに人間または人間態をとった神や悪魔を表現した絵画や彫刻にみられるが、古代ギリシアに入って著しく盛んになり、とくに彫刻において多くの傑作を生んだ。それは、ギリシアでは神人同形同性の宗教観から、人体の理想像あるいは理想的人体美をしきりに追求していた結果である。
しかし、宗教、とくにイスラム教やキリスト教では肉体的露出を禁制し、人間がみだりに人前で脱衣することは、恥ずかしいこと、軽蔑(けいべつ)すべきもの、野蛮なものとする観念が形成された。そのため、ヨーロッパの中世では絵画でも彫刻でも宗教的理由から裸体表現は避けられていたが、ルネサンス以後、ギリシア神話や聖書からテーマをとった裸体画、裸身像がふたたび盛んになった。裸婦ではビーナスがしきりに取り上げられたが、そのモデルが同時代の美女であったことは注目されよう。また、海から生まれたビーナスの裸身を描くことから、裸婦たちの野外での水浴光景を描くことも、社会的に許されたテーマとなり、伝統として長く続いた。
このように、宗教的理由からギリシア神話や聖書や水浴光景のテーマに限定されて許されていた裸体表現も、ワトー、ブーシェらのロココ時代の美的見地からの裸婦描写を経て、19世紀も後半になると、神話や聖書などの光景を借りずに、直接的に取り上げられるようになる。ロダンの彫刻やルノワールの裸女などがその代表である。そして、アカデミーの美術教育ではヌード・デッサンが必須(ひっす)科目として定着したし、彫刻では男女の裸身像、絵画では裸婦をテーマにしたものが一般化した。また写真芸術が生まれると、光と影の効果を使って、ヌードは重要な被写体となり、写真表現における一ジャンルを形成するまでになった。
以上のように、ヌードとは古代ギリシアから始まりヨーロッパに発達した裸体の造形表現であるが、これ以外には、インドのヒンドゥー教文化圏における彫像を除いてはほとんどみられない。確かに、アフリカの原始彫刻などに裸身像がみられはするが、前述のように人体の審美的追求をヌードと規定するならば、これらは裸身像ではあるが、ヌードではないからである。
そうした意味からいえば、半裸または全裸の肉体に直接絵の具を塗るボディ・ペインティング、自己の肉体を美しくして示すボディビル、舞台におけるヌード・ダンスなどは、ヨーロッパのヌードの伝統を現代的にしたものといえよう。要するに、「ヌード」とは裸体の造形表現を重視した、美術的な概念であることが指摘されよう。
[深作光貞]
『中山公男・高階秀爾企画・監修『全集 美術のなかの裸婦』全12巻(1979~1981・集英社)』▽『重森弘淹他編『日本写真全集6 ヌードフォト』(1986・小学館)』▽『ウエストン・ネフ、ブライアン・ホーム監修『世界写真全集4 ヌードフォトグラフィ』新装版(1983・集英社)』
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