パワーリフティングは、バーベル挙上を競うということでは、ウエイトリフティングと同類であり、歴史的な背景も同じであるが挙上方法に大きな違いがある。
パワーリフティングはスクワット(脚力)、ベンチプレス(腕力)、デッドリフト(背筋力)の三つの方法で各3回ずつ挙上し、各種目の最高挙上記録を合計したトータル重量で順位が決められる。
(1)スクワット 台上に置かれたバーベルを両手を添えて両肩に担ぎ、膝(ひざ)を完全に伸ばし、胸を張った直立の姿勢から、レフェリーの合図で大腿(だいたい)上面が膝の上端部より低くなるところまでしゃがみ、そして立ち上がり、静止後バーベルを台上に戻す。
(2)ベンチプレス ベンチ上に仰臥(ぎょうが)し、両手でベンチスタンドからバーベルを外し、胸につけ、レフェリーの合図で挙上する、次のレフェリーの合図でバーベルをスタンドに戻す。
(3)デッドリフト プラットホーム(床に設置された土台)上のバーベルを両手で握り、直立姿勢になるまで引き上げ、レフェリーの合図で戻す。
[林 克也 2020年1月21日]
競技の進行は、スクワットの試技を終了してからベンチプレス、そしてデッドリフトの順に行われる。各種目とも3回ずつ試技を行うが、1グループの選手が全員1回の試技を終えてから、2回目の試技に入り、同様にして3回目を行う。各種目とも1回挙上できれば成功となる。3種目のうちいずれかの種目で、3回とも挙上に失敗し記録がゼロになれば、失格となる。
試技の成功・失敗の判定は合計3名の審判(主審1名、副審2名)が行い、2名以上が白旗を上げれば(または白ランプを点灯させれば)成功、赤旗を上げれば(または赤ランプを点灯させれば)失敗となる。
バーベルは2.5キログラム(日本記録挑戦のときは500グラム)刻みで増量できる。失敗した場合は、次の試技を同じ重量で再挑戦するか、それ以上の重量で挑戦することができる。しかし、重量を減らすことはできない。
順位については、同じ階級で同記録の場合、体重の軽い選手が上位となる。また、同記録・同体重の場合は先にトータル記録を成立させた選手が上位となる。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
パワーリフティングでは、使用できるコスチューム(服装)により競技区分がフルギアとノーギアに分かれ、区分により競技記録も大きく異なる。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
通常の衣服よりも硬く反発のある繊維素材を利用したスーパースーツ、ベンチシャツ、ニーラップを公式大会で使用することができる競技区分。後述する全日本大会はフルギアカテゴリーの競技である。なお、フルギアは日本独自の呼称で、国際的にはEquip(イキップ)と表現される。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
前記のスーパースーツ、ベンチシャツ、ニーラップを公式大会で使用することができないカテゴリー。後述するジャパンクラシック大会はノーギアカテゴリーの競技である。なお、ノーギアは日本独自の呼称で、国際的にはRaw(ロー)と表現される。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
パワーリフティングでは、年齢と体重により出場区分が分かれる。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
パワーリフティングの年齢においては、カレンダーイヤーが採用されている。これは1月1日に生まれた人も12月31日に生まれた人もその年では同じ年齢として扱われる(例:1980年生まれの人は2020年の競技においてはすべて40歳として扱われる)。なお、例外として公式大会に参加が可能となる14歳のみ満年齢で扱われる。
各年齢区分と名称は以下のとおりである。
(1)サブジュニア 満14歳~カレンダーイヤー18歳
(2)ジュニア カレンダーイヤー19歳~23歳
(3)一般 満14歳以上
(4)マスターズⅠ カレンダーイヤー40歳~49歳
(5)マスターズⅡ カレンダーイヤー50歳~59歳
(6)マスターズⅢ カレンダーイヤー60歳~69歳
(7)マスターズⅣ カレンダーイヤー70歳以上。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
体重によりそれぞれ参加できる階級が分かれる。2011年(平成23)以降に実施されている階級は次のとおりである。
(1)男子(9階級) 53キログラム(サブジュニア、ジュニアのみ。以下キロと略す)、59キロ、66キロ、74キロ、83キロ、93キロ、105キロ、120キロ、120キロ超級。
(2)女子(8階級) 43キロ(サブジュニア、ジュニアのみ)、47キロ、52キロ、57キロ、63キロ、72キロ、84キロ、84キロ超級。
たとえば、男子74キロ級に出場するためには、公式大会当日の検量で体重を66.01キロから74.00キロの間にしなければならない。
なお、2011年に実施階級の大改正が行われる以前は、長期間にわたり以下の階級が採用されていた。
男子は52キロ以下、56キロ以下、60キロ以下、67.5キロ以下、75キロ以下、82.5キロ以下、90キロ以下、100キロ以下、110キロ以下、125キロ以下、+125キロの11クラス。そして、女子は44キロ以下、48キロ以下、52キロ以下、56キロ以下、60キロ以下、67.5キロ以下、75キロ以下、82.5キロ以下、90キロ以下、+90キロの10クラスである。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
パワーリフティングは、1920年ごろにアメリカで行われたボディビルダーの力比べを源流とし、1950年代に現在の形としてまとめられ、1971年に国際パワーリフティング連盟International Powerlifting Federation(IPF)が結成されてから各国に普及した。なお、2019年時点ではオリンピックの正式種目ではない。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
日本では、1972年(昭和47)に日本パワーリフティング協会Japan Powerlifting Association(JPA)が設立され、1974年にIPFに、1994年(平成6)に日本体育協会(現、日本スポーツ協会)に加盟した。2019年4月時点で、27の地方協会が各県の体育協会に加盟している。
国民体育大会(国体)関係では、1998年の神奈川国体でパワーリフティングが初めてデモ競技として参加。2015年に開催された和歌山国体からは公開競技として実施されている。
なお、JPAは1999年7月に社団法人、2013年4月に公益社団法人として認可された。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
JPAが開催する大会には、以下のようなものがある。
(1)全日本男子パワーリフティング選手権大会
(2)全日本女子パワーリフティング選手権大会
(3)全日本ジュニアパワーリフティング選手権大会
(4)全日本サブジュニアパワーリフティング選手権大会
(5)全日本マスターズパワーリフティング選手権大会
(6)全日本ベンチプレス選手権大会
(7)全日本マスターズベンチプレス選手権大会
(8)ジャパンクラシックパワーリフティング選手権大会
(9)ジャパンクラシックベンチプレス選手権大会
(10)全日本高等学校パワーリフティング選手権大会
(11)全日本学生パワーリフティング選手権大会
(12)全日本実業団パワーリフティング選手権大会
全日本大会に出場するためには、それぞれの大会で設定されている参加標準記録を上回る必要がある。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
著名な日本のパワーリフティング選手には以下のような選手がおり、国際大会においても活躍している。
因幡英昭(いなばひであき)(1944― )は、1974年から1983年にかけて世界パワーリフティング選手権大会52キロ級で10連覇を果たした。その後も7回の優勝を重ね、通算で17回優勝という偉業を成し遂げている。1978年にIPF殿堂入りを果たす。
伊差川浩之(いさがわひろゆき)(1953― )は、1979年より全日本大会で優勝通算30回、世界選手権大会56キロ級で優勝通算8回、ワールドゲームズで優勝を1回果たした。2006年に世界選手権大会で最高齢優勝(53歳)し、2007年にIPF殿堂入りを果たしている。
福島友佳子(ふくしまゆかこ)(1970― )は、全日本パワーリフティング選手権大会にて22年連続通算23回優勝、21年連続文部科学大臣杯受賞、全日本ベンチプレス選手権大会にて19連続19回優勝、世界パワーリフティング選手権大会にて通算5回優勝、世界ベンチプレス選手権大会において通算9回優勝、ワールドゲームズ最高2位。2012年にIPF殿堂入りを果たす。
児玉大紀(こだまだいき)(1979― )は、全日本ベンチプレス選手権大会にて通算15回以上優勝、世界ベンチプレス選手権大会にて通算14回優勝、世界クラシックベンチプレス選手権大会にて通算4回優勝。2017年にIPF殿堂入りを果たす。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
パラ・パワーリフティングは、下肢に障がいのある選手を対象としたベンチプレス競技である。1964年の東京大会からパラリンピックの正式種目として行われている。当時の競技名は「ウエイトリフティング」で、男子種目のみであったが、1988年のソウル大会から競技名が「パワーリフティング」に変更され、2000年のシドニー大会からは女子種目が加わっている。
パラリンピックでは、パワーリフティングにおけるノーギアのベンチプレスのルールに準じて競技が行われるが、障がいを考慮し、一部ルールが変更されており、台上に選手の全身が乗るようにつくられた専用のベンチプレス台を使用する。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
選手ひとりひとりが順々にベンチプレス台の上で試技を行う。各選手3回ずつ行い、基本的には回数を追うごとに重い重量の記録に挑戦をしていく(新記録をねらう目的で、特別試技として4回目に挑むことができるが、競技会の順位には反映されない)。
選手は、審判の「バーズローデッド」(バーが準備完了bar is loadedの意)の掛け声とともに入場し、ベンチプレス台に向かう。ベンチプレス台に身体を移し、脚にベルトを巻かれ固定されてからバーを持ち、腕を伸ばす。審判の試技開始の合図により、胸までバーを下げ、胸で静止した後、左右バランスよくバーを押し上げ腕を伸ばしきる。審判の「ラック」の掛け声とともにアシスタントがバーベルを支え、ラックに戻す。3名の審判のうち、2名以上が成功と判断すれば記録は認められる。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
競技は男女別、体重別に行われる。障がいの種類や程度による区分はない。
(1)男子(10階級) 49キロ、54キロ、59キロ、65キロ、72キロ、80キロ、88キロ、97キロ、107キロ、107キロ超級。
(2)女子(10階級) 41キロ、45キロ、50キロ、55キロ、61キロ、67キロ、73キロ、79キロ、86キロ、86キロ超級。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
大会では体重別の階級で順位を競うが、下肢切断の選手は障がいによって体重が軽くなるため、切断の程度により以下のように体重に重量が加算される(片脚ごとの加算)。
(1)足首関節以下の欠損 体重全階級で体重に2分の1キロの加算
(2)膝関節以下 体重67キロ以下で1キロの加算、体重67.01キロ以上で1.5キロの加算
(3)膝関節以上 体重67キロ以下で1.5キロの加算、体重67.01キロ以上で2キロの加算
(4)股関節(こかんせつ)からの切断 体重67キロ以下で2.5キロの加算、体重67.01キロ以上で3キロの加算。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
日本のパラ・パワーリフティングの活動は、特定非営利活動法人日本パラ・パワーリフティング連盟Japanese Para-Powerlifting Federation(JPPF)によって運営されている。
1999年5月、JPA(当時)常任理事会において、障がいをもつ選手を中心としたパワーリフティング団体の設立要望書が提出され、翌6月にJPA主催の全日本ベンチプレス選手権大会で、有志により会合が開かれ、日本ディスエイブル・パワーリフティング連盟Japan Disabled Powerlifting Federation(JDPF)が発足。同年12月に日本の障がい者スポーツを統括する財団法人日本障害者スポーツ協会(現、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会)への加盟が承認された。2013年12月にJDPFは特定非営利活動法人に移行。2014年10月に現在の「特定非営利活動法人日本パラ・パワーリフティング連盟」に名称を変更した。
[奥谷元哉 2020年1月21日]
スナッチとジャークの2種目で最高挙上重量を競うウェイトリフティングに対抗して,1950年代初期にアメリカで誕生した競技。スクワットsquat,ベンチ・プレスbench press,デッド・リフトdead liftの3種目の挙上重量を競う。これらはボディビルディングのトレーニングで使う種目であり,ボディビルダーにもウェイトリフティング的な競技会の機会をもたせようという目的でつくられた。誕生当初はオッド・リフト・コンテストodd lift contestと呼んでいたが,50年代の中期からパワーリフティング・コンテストと称するようになった。スクワットはまずバーベルを肩にかついで立ち,しゃがんで立ち上がる脚,腰の力を競う種目。ベンチ・プレスはベンチにあおむけに寝て,両手でバーベルを胸から真上に押し上げる腕,胸,肩の力を競う種目。デッド・リフトはプラットフォーム(試技台)に置かれたバーベルを両手でもち,直立して腰までこれをもち上げる脚,背の力を競う種目である。スクワットやデッド・リフトでは体重の5倍以上(女子で3.5倍以上),ベンチ・プレスでは3倍以上(女子で2倍以上)の重量をもち上げられるうえ,テクニックもさしてむずかしくないので,世界的な普及をみている。65年に初の全米選手権大会が開かれた。さらに71年からは世界選手権大会も開かれ,日本は74年の第4回大会から参加している。競技はウェイトリフティングのように,体重によって52kg級,56kg級,60kg級,67.5kg級,75kg級,82.5kg級,90kg級,100kg級,110kg級,125kg級,+125kg級(125kg以上)の11階級に分けられ,同一階級内の選手同士で行う。最近では女性の間でもこのスポーツが盛んになり,80年からは女子世界選手権大会が行われるようになった。女子の場合,48kg級,52kg級,56kg級,60kg級,67.5kg級,75kg級,82.5kg級,90kg級,+90kg級の9階級である。スクワット,ベンチ・プレス,デッド・リフトともに3回ずつの試技が許され,競技の進め方はウェイトリフティングによく似ている。
→ウェイトリフティング
執筆者:窪田 登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(武田薫 スポーツライター / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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