日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒロネーリャ」の意味・わかりやすい解説
ヒロネーリャ
ひろねーりゃ
José María Gironella
(1917―2003)
スペインの小説家。スペイン内戦中はフランコ軍側に参加し戦ったが、この体験に基づき膨大な資料を駆使して『糸杉は神を信ず』(1953)、『百万人の死者』(1961)、『平和の到来』(1967)などのシリーズ小説を発表。これがスペイン国内で人気をよび、流行作家としての地位を獲得した。しかし彼の小説家としての真価を、ナダル文学賞受賞の処女作『ある男』(1946)に認める批評家も多い。内戦から戦後にかけてのスペイン社会と人々の生活をさらに幅広く取り上げたのが、長編『生きることを余儀なくされて』(1971)である。カタルーニャ地方の社会状況や30年間にわたるスペインの社会変革を丹念に追いながら、ベガ家とベンドゥーラ家という2家庭の、内戦を体験した父親たちと、戦後の新世代を形成する息子たちとの間の葛藤(かっとう)を描いている。その後、『悩み深き疑念』(1986)では、内戦前から現代に至るまでのスペイン人の宗教観の変化を折り込み、主人公の人格形成の流れを回想録の形をとって物語っている。作者はこうした諸作品で、一貫して内戦から戦後にかけてのスペイン人の生活を詳細な資料とこまめな取材を通して描き、同様の体験を経てきた一般読者層には読みやすく共感を得やすい読物として人気を博しているが、確固とした問題意識や人間心理の深い洞察力に欠けるうらみはある。なお日本での滞在の印象を綴(つづ)った随筆『日本とその魅惑』(1964)もある。
[東谷穎人]