すべての言論・報道活動の基本となる、ニュース・各種情報の素材を収集する活動。一般の時事の事項を取り扱い、公衆を相手に報道を行う新聞、雑誌、放送における取材は、その公益的性格から、活動上の便宜・自由度の両面にわたって大きな特典が与えられている。具体的には、中央政府・地方自治体、その他の公共機関、有力民間企業・団体は、記者が駐留できる記者室を設けるなど、報道記者の取材につねに応じうる体制を整えることが多い。さらに日本では通例、そうした施設内に記者たちの組織である記者クラブがつくられる。報道取材となる情報の収集にあたって、あらゆる対象(人、物)への接近や、用いる取材方法に関して、原則的にいかなる規制も及ぼされるべきではないとする取材の自由の考え方は、民主主義国では、おおむね社会的合意を得るに至っている。
日本の場合、激しい取材競争のかたわら、特定紙記者が独占的に記者クラブに安住し、ニュース・ソース(取材対象の人や機関など)と癒着、「発表もの」に依存しがちとなる取材のあり方に対して批判が強まり、1997年(平成9)12月、日本新聞協会は「記者クラブに関する見解」を改訂、それまで「懇親組織」とみなしてきたクラブを「取材拠点」と規定し直すとともに、その成員を新聞協会加盟紙記者のみで構成してはならないとするとともに、クラブを外国人記者にも開放すべしとする新見解を打ち出した。だが、現実の推移は、多くの政府省庁が99年8月、国旗・国歌法制定後、施設管理権を盾に庁舎内記者室会見場に日の丸掲揚を強行、記者の内心の自由まで侵す事態をもたらしており、記者クラブによる取材が当局への依存・癒着を断ち切る困難さは、かえって強まったといえなくもない。このような状況のなか、2001年、長野県知事田中康夫が記者クラブ室の撤去を決定、東京都知事石原慎太郎が記者クラブ室の使用料を各メディアに請求する、などの方針をとったのも注目される。
報道側は、報道の自由な活動こそ国民の知る権利を現実化するものであり、取材、編集(編成)、報道(表現)の一連の流れは不可分であるとし、取材の自由も憲法第21条の完全な適用を受けるべきだと一貫して主張してきた。これに対しては、1952年(昭和27)8月6日の石井記者事件(石井被告は取材源の秘匿を主張して法廷証言を拒否)に対する最高裁大法廷判決のように、取材の自由は報道のそれとは区別され、制限されることもありえる、とする見解が示されたこともある。だが、その後の最高裁の博多(はかた)駅事件取材フィルム提出命令事件判決(1969)、沖縄密約暴露事件判決(1978)のように、「公共の福祉」を理由にただちに取材の自由を制限することは適当でなく、国民の知る権利に奉仕する報道機関の役割が尊重されるべきだ、とする見方が強まるようにはなってきた。こうした流れのなかで、報道側が88年のリクルート事件にあたって、独自取材の徹底を通じてインベスティゲイティブ・リポーティングinvestigative reporting(調査報道)の成果をあげたことは、国民の知る権利にこたえ、政治・社会の民主主義の発展に資する取材・報道の自由の意義を、鮮明に印象づけた。
だが取材の自由は、一方で、販売部数競争・視聴率競争の激化とともに、集中豪雨型取材・スキャンダリズムへの傾斜などに流される危険も伴い、1990年代なかば以降、松本サリン事件冤罪(えんざい)報道をはじめ、「報道被害」と批判される多くの人権侵害事件の発生との関連で、その行使に関して重大な反省を迫られてきた。
1999年(平成11)5月、日本でもようやく国の情報公開法が成立(2001年4月施行)、メディアがこれを活用し、公的情報源機関に対して独自の取材活動で迫り、調査報道の可能性を拡大していくことのできる基盤的な環境条件が整いつつある。だが、政府はこれに対して、市民のプライバシー・個人情報の保護を理由に、民間の個人情報取扱事業者を政府が規制するとする個人情報保護法の制定作業を進め、その規制対象には報道も含めるとする考え方に固執している。そのため、この面から、取材活動に対する公権力の介入・規制が強まったり、取材源(情報源)の秘匿権や、事後の取材資料の捜索や押収を拒否する権利などに対する公権力による抑圧の脅威が増大する危険が、新たに生じている。
このような政府の姿勢は、市民がマスコミ不信を強める感情を巧みに利用しており、報道界が政府の企図を失敗させようと思うのなら、自力で報道被害を根絶し、読者・視聴者の苦情や批判にまじめに耳を傾け、具体的な信頼回復への努力を明確に示す必要がある。2000年(平成12)10月、毎日新聞は、そのようなねらいから社内オンブズマン的な機関を設け、その後、多くの新聞社が同様の対応策を講じた。
[桂 敬一]
『新聞取材研究会編『新聞の取材』上下(1968・日本新聞協会)』▽『城戸又一他編『講座現代ジャーナリズムⅡ 新聞』(1973・時事通信社)』▽『桂敬一他編『21世紀のマスコミ 新聞』(1997・大月書店)』
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