ヒ化物(読み)ヒカブツ

化学辞典 第2版 「ヒ化物」の解説

ヒ化物
ヒカブツ
arsenide

ヒ素と,より陽性な元素(おもに金属)との二元化合物.【アルカリ金属,アルカリ土類金属,希土類,周期表11,12族などの金属との化合物は共有結合性は少ないが,単純なイオン結晶ではなく,金属結合性がまじっていて,Zintl相がみられるものもある.たとえば,Na3Asはむしろ金属結合化合物に近く,一方,LiAsは Li と As からなり,As は等電子配置のSeと同様な鎖状構造である.いずれも水,希酸と反応してAsH3を発生するから,イオン結合化合物と性質が似ている.【】周期表13族元素.Al,Ga,Inなどとの化合物は,いずれもMとAsが1:1の組成で,せん亜鉛鉱型構造である.これらはⅢ-Ⅴ半導体とよばれる化合物半導体で,実用上重要である([別用語参照]ヒ化ガリウム).いずれも水に不溶,王水に可溶.【遷移金属との化合物.種類が多いが,MとAsの原子数比が1:2,1:1,2:1のいずれかのものが多く,金属結合性化合物である.FeAs2,CoAs2,NiAsは天然に鉱石として産出する.NiAsの構造は,結晶構造の代表例の一つである.いずれも水,希酸に不溶.【非金属との化合物.Asより陽性な非金属(Si,Bなど)との化合物がある.例:SiAs,SiAs2,BAsなど.なお,HはAsより陰性と考えられるから,AsH3(正式名アルサン)の系統名水素化ヒ素で,ヒ化水素ではない.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒ化物」の意味・わかりやすい解説

ヒ化物
ひかぶつ
arsenide

ヒ素より電気陽性な金属とヒ素との化合物の総称。元素どうしの直接結合またはヒ化物を熱分解して一部のヒ素を放出させる。アルカリ金属やアルカリ土類金属とはヒ化ナトリウムNa3As、ヒ化マグネシウムMg3As2などをつくる。水と反応してアルシン(ヒ化水素)を生じるので塩型とみなされる。遷移金属元素のヒ化物は金属的で、原子比が2対1、1対1、1対2のものが多い。砒(ひ)鉄鉱FeAs2、砒コバルト鉱CoAs2、紅砒ニッケル鉱NiAsは天然に産出する。遷移金属は不対電子をもっているから金属原子間の相互作用が強く、NiAsは電気を通し、強磁性である。13族元素とはMAs型のヒ化物をつくり、閃(せん)亜鉛鉱型構造をもつ。その電気的特性が注目され、とくにヒ化ガリウムGaAs、ヒ化インジウムInAsは半導体としての用途が広い。

[守永健一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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