化合物半導体(読み)カゴウブツハンドウタイ

デジタル大辞泉 「化合物半導体」の意味・読み・例文・類語

かごうぶつ‐はんどうたい〔クワガフブツハンダウタイ〕【化合物半導体】

2種以上の元素からなる半導体シリコンゲルマニウムのように単一の元素ではなく、窒化ガリウム(GaN)、ガリウム砒素(GaAs)のように、化合物として半導体の性質をもつものをさす。発光ダイオード半導体レーザーなどに利用される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「化合物半導体」の意味・わかりやすい解説

化合物半導体
かごうぶつはんどうたい

2種以上の元素からなる半導体をいう。半導体とは、電気抵抗が導体と絶縁体の中間の10-4~109オーム・センチメートルにある物質で、ある温度以上になると、温度が高くなるとともに抵抗率が下がるものをいう。これには、元素の周期表のⅢ-Ⅴ族のヒ化ガリウムガリウムヒ素)、リン化ガリウム、Ⅱ-Ⅵ族の硫化カドミウムテルル化亜鉛、Ⅳ-Ⅵ族の硫化鉛、Ⅳ-Ⅳ族の炭化ケイ素などがある。化合物半導体結晶は電気特性と光電変換特性、耐環境性に特徴があり、高速電子デバイスとか光電子デバイスなどに広く用いられている。しかし、均質な大型結晶が得がたいことから大規模集積回路(LSI)はつくられていない。

 異種元素が結合した結晶は、19世紀末から熱分析やX線による構造解析の物理的な興味の対象となり、1926年にハギンスH. L. Hugginsがアメリカの物理学会誌PhysicalReviewで、Ⅲ族とⅤ族の元素を組み合わせると、Ⅳ族と同様の半導体結晶ができるはずであると指摘している。実際に半導体の性質をもつことが知られるようになったのは、旧西ドイツのジーメンス社のウェルカーH. Welkerが、トランジスタ材料のゲルマニウムにかわるものとして、1950~1952年にわたって徹底的に研究を進めたことによる。彼は各種の元素の組合せによる化合物半導体の実在を証明し、その物理的性質を明らかにしている。

[岩田倫典]

用途

化合物半導体は元素の組合せが多様であり、組合せによって半導体の禁制帯幅が異なるため、利用できる光の波長が異なる光電特性が得られる。この特性を利用したものが発光ダイオード、半導体レーザー、受光ダイオードである。

 発光ダイオードは、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体のヒ化ガリウム(赤外)、リン化ガリウム(赤・緑)、リン化ガリウムヒ素GaAsP(黄)、および窒化ガリウム・ヒ素(青)、また光電変換効率をあげるためにⅢ-Ⅴ族の化合物半導体と他の元素を添加した混晶とのヘテロ(異種)接合を用いて高効率化を図ったものが光通信用につくられている。

 半導体レーザーは、1970年にヒ化ガリウムとヒ化ガリウムアルミニウムGaAlAs間のヘテロ接合を用い赤外光波長0.85ミクロン帯の室温連続発振に成功して以来、リン化インジウムガリウムヒ素InGaAsPによる1.3ミクロン帯と1.55ミクロン帯のものが光通信用として開発されている。化合物半導体では、微細な混晶比の変化によって光波長が変わることから、ヒ化ガリウムアルミニウムによって0.75ミクロンのものもつくられ、光ディスクとかバーコードの読出し用、レーザープリンターに使用され、さらにGaN(窒化ガリウム)系またはZnSe(セレン化亜鉛)系の超格子により0.50ミクロンを切る青色レーザーが開発されている。

 受光ダイオードでは、リン化インジウム・ガリウム・ヒ素による赤外域の長波長ダイオードとか、リン化インジウムによるアバランシェダイオードなどがある。

 化合物半導体の電子の移動度が大きいことを利用したものに、マイクロ波素子とか集積回路がある。マイクロ波発振用にはヒ化ガリウムを用いたインパットダイオード、リン化インジウムとヒ化ガリウムによるガンダイオードなどがある。またヒ化ガリウムは、マイクロ波用のミクサダイオード、電界効果トランジスタなどにも利用されている。さらにヒ化ガリウムは、電子移動度がシリコンの4~6倍となることから、シリコンにかわる高速コンピュータ用の集積回路に、また負性抵抗をもつことから、トンネルダイオードにも利用されている。新しい超高速素子ヘムト(HEMT)はヒ化ガリウムとアルミニウムの混晶を用いて超格子をつくったもので、シリコンの10~20倍のスイッチング速度が得られる。

 以上のほか、磁電変換用のホール素子には、Ⅲ-Ⅴ族のヒ化インジウム、インジウムアンチモンInSbが、磁気抵抗素子にはアンチモン化インジウムが用いられる。超音波用の圧電素子にはヒ化ガリウムが用いられる。原子番号の大きい重い原子の化合物半導体として、テルル化ビスマスBi2Te3をはじめテルル化アンチモンSb2Te3やテルル化鉛PbTeなどがあり、ペルチエ素子として電子冷凍に利用される。

 またヒ化ガリウムとヒ化ガリウムアルミニウムの異種金属間接合を用いた太陽電池は、シリコンの2倍の発電効率が得られることから、人工衛星などに使用されている。

[岩田倫典]

『菅野卓雄編・著『次世代素子』読売科学選書42(1991・読売新聞社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「化合物半導体」の意味・わかりやすい解説

化合物半導体
かごうぶつはんどうたい
compound semiconductor

ゲルマニウムやシリコンが単一元素より成る元素半導体であるのに対して,二元,三元あるいはそれ以上の元素より成る化合物で半導体性を示すものは非常に多く,それらを化合物半導体と称する。そのうち,現在実用化されている化合物半導体のほとんどは III-V族化合物と II-VI族化合物である。ゲルマニウムやシリコンの結合は共有結合であるが,III-V,II-VIとなるに従ってイオン性の結合が増し,I-VII族化合物ではほとんど完全なイオン結晶である。一般に,イオン性が強いほど禁制帯幅が広くなり,また IV族元素の場合と同様に,原子量が大きいほど禁制帯幅が狭くなる傾向がある。化合物半導体は元素半導体では得られない種々の特長をもつため広い範囲で応用される。たとえば,直接遷移型をもつものでは,効率のよい発光が得られるため,GaAsの発光ダイオード,レーザー,ZnS,ZnOなどのケイ光材料などが得られる。電子の移動度が高いものでは,InAsや InSbのホール素子,GaAsのマイクロ波電界効果トランジスタが実用されている。また,GaAsは動作速度が高いため,携帯電話のデータ送受信部品としても使われている。その他,熱電発電や熱電冷却用に BiSb,Bi2Te3 などが,圧電半導体用として CdS,CdSe,ZnOなどが用いられている。また CdS (硫化カドミウム) は光導電セル用材料として,たとえばカメラの露出計などに用いられる。

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化学辞典 第2版 「化合物半導体」の解説

化合物半導体
カゴウブツハンドウタイ
compound semiconductor

SiやGeのような単体で半導体の物性を示す材料と異なり,化合物としてはじめて半導体の物性を示す物質をいう.GaAsなどの周期表13~15族や,ZnSeなど12~16族半導体が代表的である.直接遷移型であることや,電子移動度が大きいため光関係のデバイスや高速なトランジスターに用いられることが多い.また,含まれる元素の数を増やしてバンドギャップを制御したAlGaAsなどの三元混晶や,InGaAlAsなどの四元混晶などを用いてヘテロ構造がつくれるので,半導体レーザーなどのデバイスで応用されている.

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百科事典マイペディア 「化合物半導体」の意味・わかりやすい解説

化合物半導体【かごうぶつはんどうたい】

単体ではなく,III‐V族またはII‐VI族の化合物のように,二種類以上の元素の化合物で半導体の性質を示す物質の総称。ヒ(砒)化ガリウム(GaAs)が代表的なもので,ほかのIII‐V族化合物(GaP,AlAs,InSb,InPなど)およびこれらの混晶も,よく用いられる。シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)のような単体の半導体にはない特性があり,発光ダイオードや半導体レーザー素子,マイクロ波素子などに利用されている。化合物半導体を用いた超高速動作素子や光集積回路,超格子素子などの研究開発も盛んに行われている。

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知恵蔵 「化合物半導体」の解説

化合物半導体

2種類以上の元素から成る化合物で、半導体の特性を示す物質の総称。シリコンにはない、またはシリコンより優れた特性が注目され、各種半導体素子に使われている。特にIII族元素とV族元素から成るIII‐V族半導体、II族元素とVI族元素から成るII‐VI族半導体、それらの間の混晶などが有名。ガリウム・ヒ素は代表例で、ガリウム・ヒ素・トランジスタは超高速用途に適している。発光ダイオード、半導体レーザーなどの光学デバイスやマイクロ波素子、超格子素子など、高速で動作する素子に応用。

(荒川泰彦 東京大学教授 / 桜井貴康 東京大学教授 / 2007年)

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