日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィルム・アーカイブ」の意味・わかりやすい解説
フィルム・アーカイブ
ふぃるむあーかいぶ
film archives
文化史的ないし芸術的にみて資料的価値をもつ映画作品を収集、保存し利用する機関。以前はフィルム・ライブラリーの用語も用いられたが、今日ではこの名称は教育目的の機関に限定し、国際的な用語であるフィルム・アーカイブ(映画・記録保存所の意味)を用いるようになった。なお、ラテン系の国ではシネマテークcinémathèque(フランス語)、チネテカcineteca(イタリア語)、シネマテカcinemateca(スペイン語)などが用いられる(いずれも映画図書館の意味)。
イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリアなど、映画製作が早くから活発だった国では、映画がトーキーに移行したとき、映写速度の相違などから、在来のサイレント映画の大量のフィルムが死蔵される結果となり、これを保存する必要に迫られて、1930年代後半には、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツなど旧作フィルムの保存、利用を目的とするフィルム・アーカイブを設置する国が多かった。日本の場合、古典映画の保存に対する認識や体制の遅れもあり、1952年(昭和27)になってようやく東京国立近代美術館に「フィルムセンター」の名称でフィルム・アーカイブが付設された。
映画は、発明当初から1960年代中ごろまで引火性の強い材質のセルロイド・フィルムが用いられていたし、またカラー映画もその初期には退色しやすい色素が使われていたこともあって、保存には大きな困難がつきまとった。今日各国の所蔵作品をみても、時代がさかのぼるほど現存する作品が極端に少ないのはそのためである。今日では、変質を防ぐための定温、定湿度のフィルム保存庫をもつ国が多く、保存に適さない材質のフィルムは安定した材質のフィルムに複写して保存する措置がとられている。日本も1960年(昭和35)に神奈川県相模原に整備された保存庫を建設し、2001年(平成13)6月現在約2万7000作品、約5万5000巻のフィルムを収蔵している。
日本のフィルムセンターの活動状況としては、東京京橋の本拠地で常設的に所蔵フィルムの計画上映を行うほか、全国各地での計画上映も進めている。また諸外国の同種機関との交換上映を行うこともあり、所蔵フィルムを活用した映画人養成講座なども実施している。
世界各国のフィルム・アーカイブをみると、保存に重点を置く機関から活用に力点を置く機関まで、活動状況はまちまちであるが、それぞれに独自の活動根拠をもっている。国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)は世界の主として国立ないし公立の同種機関の連絡機関で、映画フィルムの収集、利用、交流などについて連絡協調を図っているが、国によってはさらに図書館、大学などに同種の機関をもつところもあり、世界のフィルム・アーカイブは互いに連携を強め協調を図る傾向がうかがわれる。
[登川直樹]