ブッシュ・ドクトリン(読み)ぶっしゅどくとりん(その他表記)Bush Doctrine

知恵蔵 「ブッシュ・ドクトリン」の解説

ブッシュ・ドクトリン

同時多発テロ後、ブッシュ大統領が述べた一連のテロ対策をベースにした国家安全保障の基本原則。2002年9月に公表された「米国の国家安全保障戦略(The National Security Strategy of the United States of America)」はその集大成といえよう。9.11事件以後、米国及び世界にとっての脅威は冷戦時代のソ連、中国などの共産主義国家ではなく、テロ集団、あるいはテロリストであり、彼らをかくまったり、様々な支援をする国家も含まれ、具体的にはイラクイラン、北朝鮮が「悪の枢軸」として名指しされた。冷戦期の核戦略主体の勢力均衡抑止と対照的に、9.11後の脅威は核兵器のみならず、炭疽菌サリンなどの生物化学兵器、いわゆる大量破壊兵器(WMD)全般である。従来の国家間の対立と違い、特定の個人や集団も脅威になり得るところから、これまで以上に安全対策を徹底的に行わざるを得ない。国内的には出入国の警備の強化(国土安全保障省の新設)、テロ集団やテロ支援の個人の資産凍結などを推進する一方、対外的にはテロ撲滅のため外国政府や国際機関との協力を表明している。しかし、そうした国際協力が得られない場合、米国は単独でも、しかも先制攻撃(pre‐emptive strike)も辞さないと宣言。実際03年3月、明確な国連決議なしにイラクを武力攻撃し、フセイン政権を崩壊させたが、肝心のWMDは発見できなかった。イラク戦争の泥沼化が懸念される中、このドクトリンによってテロを撲滅できるのか、疑問視されている。

(細谷正宏 同志社大学大学院アメリカ研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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