精選版 日本国語大辞典 「ヘアスタイル」の意味・読み・例文・類語
ヘア‐スタイル
- 〘 名詞 〙 ( [英語] hairstyle ) 結ったり、切り整えたり、縮らせたりして仕上げた髪のかたち。頭髪の恰好(かっこう)、様子。髪形。
- [初出の実例]「第一、それでは、そのころの女の子のヘア・スタイルではないか」(出典:小説平家(1965‐67)〈花田清輝〉三)
髪形のこと。昔からヘアスタイルは老若男女を問わず、伸びてくる毛を美容上、衛生上などの理由で、切る、剃(そ)るなどしてさまざまの形に変化させてきた。近世以降、各国間の交流が盛んになると、多くの国々で同じ髪形が同時に流行する現象もみられるようになった。日本のヘアスタイルについては、「髪形」の項で展開する。
[横田敏一]
第二次世界大戦後、女性の職場進出は著しく、そのために活動的でありながらも、女性らしいヘアスタイルが好まれるようになった。また長い豊かな髪への愛着は依然として根強く、編んだり結い上げたり、束ねたり、パーマをかけるといったように、多種多様のヘアが渾然(こんぜん)と女性を取り巻いている。現代では、ピンカールとローラー技術で逆毛を立てながらスタイルをつくっていく技法はしだいに影を潜め、1970年代に入り世界に広まった、カット・アンド・ブローの名称でロンドンで生まれたスタイルが、自然でしかも手軽なカット技法として人気を集めた。さらに進んでノン・ブローのカットとヘアカラー(カラリング、毛染め)、パーマ技術のみでデザインを完成させるヘアスタイルが若い女性を中心に支持を得ている。日常的には、ブロー、ノン・ブローのヘアスタイルが中心を占め、ピンカールとローラーによるヘアスタイルは、年配の女性の一部か、冠婚葬祭など特別なときに用いられるなど、限定的なものになりつつある。
[横田敏一]
この酷熱炎暑の地では、通気という衛生上の見地からも、日よけ、熱よけとしてかつらが用いられた。女性の多くは髪を中央で分け、ボブスタイル風のかつらを使用した。材料は麻、羊毛、シュロの葉からとった繊維やウマのたてがみなどで、富裕階級の人は人毛を用いた。
[横田敏一]
ギリシア時代には、後頭部にポイントを置いた束ね髪で、リボンやネットでアクセントをつけるいたって自然な形で、後世の髪形に多大な影響を与えた。ローマ時代になると、ギリシアは属領になったが、生活様式や髪形はむしろギリシアの模倣に終始した。女性はギリシアや古代エジプトでも使用された、カラミストラムとよばれるカール用アイロンを使ってギリシア型をさらに複雑化したスタイルをつくりだした。1世紀以降のローマの女性たちは、オルビスとよばれる額の上部にカールを規則正しく積み上げた髪形を、上流階級の権威の象徴として流行させた。
[横田敏一]
395年ローマ帝国は東西に分裂した。東ローマ帝国は現在のイスタンブールに都を置き、東洋の影響を受けながらも、固くキリスト教を守り、はでなカールやウエーブのない、シニヨン(髷(まげ))風に結い上げてゆったりとまとめ、ネットや絹のキャップで覆った。一方、ゲルマン民族の大移動で攪乱(かくらん)された西ヨーロッパも、10世紀になって収束に向かった。それまでは自然に垂らしたままの髪が多かったが、各地域で安定した国家が確立されるにつれ、宗教的意味あいの強い、人間の体は神から授けられたもので、できるだけだいじに包み守らなければならない、といった思想から、さながら被(かぶ)り物の時代という様相を呈した。13~14世紀になると、ウインプルやエスコフィオン、エナンといった被り物が大流行した。
[横田敏一]
イタリアを中心とした文芸復興期は、髪形も大げさなものは姿を消し、ギリシア回帰の自然な髪や、三つ編みした髪を両耳にまとめたり、フェロニエールとよばれる宝石付きのヘッドバンドが、バンドー式の髪を引き立たせた。
[横田敏一]
大航海時代を経て、イギリス、フランスの絶対王制が確立する直前の16世紀末には、すでにパリがファッションの中心とみなされるようになっていた。そのフランスで、ブルボン王朝が確立した華やかな宮廷文化が花開くと、貴族階級がこぞって華美なファッションを競い合い、しだいに商人、下級官吏クラスにまで波及していった。ルイ13世時代には、羊のカールした毛のような髪が顔の周りを包むオー・ムトンがはやり、ルイ14世統治下になると、ユルリュベルリュ型や、彼の愛人のマドモアゼル・フォンタンジュMlle Fontanges(1661―81)が、とっさの機転で足のガーターを髪に巻き付けて束ねた髪形が王の気に入り、そのスタイルが30年も人気をもち続けたりした。
[横田敏一]
ロココ時代になると、宮廷文化も退廃の極みに達した観があった。ルイ15世の愛人ポンパドゥール夫人は、後世、虚栄心と乱費の化身とまで酷評されはしたが、サロンをおこし、文芸の庇護(ひご)者となり、髪形にも今日、ポンパドゥール型とよばれる前ひさしの高い束髪(そくはつ)を残した。続くルイ16世の后(きさき)マリ・アントアネットは、後世この時代を語るモデルになった途方もない巨大なヘアスタイルを結った。彼女の持ち前の好奇心と虚栄心、そして天才とよばれた結髪師レオナールの才能も加わり、髪は空に駆け上らんばかりに高く結い上げられ、その上には生花、羽、レース、リボン、宝石、ときには船の模型までのせるという、狂気の時代を生み出した。それでいて髪の中はノミとシラミの巣というありさまで、風刺家のかっこうの材料とされた。
[横田敏一]
1789年の大革命はアンシャン・レジームを完全に葬り去り、髪形も一転してじみなものになった。自然回帰の風潮が高まり、ふたたびギリシア的な髪と服装が好まれ始めた。
19世紀も美容師クロワサのアポロノット、ナポレオン3世の第二帝政期には、后のユージェニーl'impératrice Eugénie(1826―1920)がファッションの旗手を務め、ポンパドゥール風のフロントに、アングレーズ(縦にロールした髪)を肩に幾本も垂らす髪形を、イギリスから逆輸入するなど、髪形もめまぐるしく変化した。みじめな敗北を喫した1870年のプロイセン・フランス戦争後もすぐに立ち直り、1914年の第一次世界大戦まで、パリは古きよき時代とよばれるベル・エポックを迎える。1870年代は滝が落ち込む形のウォーター・フォール、そして第二次世界大戦までの美容界に革命的な影響を与えたマルセル・グラトーのマーセル・ウエーブが発明され、普及した。日本では二〇三高地とよばれたグラン・ポンパドゥールなどが流行し、これは今日のアップ・スタイルの基礎ともなった。
[横田敏一]
4年間続いた第一次世界大戦は、むしろ女性の社会進出の好機となり、多くの女性が銃後の職場に進出していった。働きやすさと、女性の権利主張をこめてダッチボブや刈上げのシングルボブ、そしてギャルソンヌやイートンクロップといった短髪が、女性の心をとらえた。反動も大きかったが、本格的に女性が髪を短くした第一歩といえよう。不況の1930年代、女優グレタ・ガルボのページボーイ・スタイルは、暗い世相でひときわ光彩を放ったものである。
[横田敏一]
第二次世界大戦も女性の職場進出と地位向上を促した。そして大戦後には映画の世界的好況から、ヘップバーン・カットやポニー・テール、セシール・カットなどが紹介され、直接女性は刺激を受け、模倣した。そして1960年代後半、ビダル・サスーンのカット・アンド・ブロー技術が登場し、あっという間に世界を席巻(せっけん)した。このカット・アンド・ブロー・スタイルは、ボブタイプのワンレングス・カット(一定の長さに水平に髪を切りそろえるスタイル)と、のちに「段カット」とよばれるレイヤー・カット、そして髪の毛の断面を巧みに生かしたグラデーション・カットに大別される。そして、これらの組合せを、パーマやカラーの化学的作用と、粗めのブラシとハンド・ドライヤーで形をつくってゆくブロー技術による物理的作用によって、無限のヘアスタイルが生み出されてゆく。カット技法は4インチ(約10センチメートル)程度の鋏(はさみ)(ミニ・シザーズ)で目的に応じた長さにシステマティックにブラント・カット(ぶつ切りカット)してゆく方法がとられ、「風になびく」機能的なヘアスタイルをつくる技法として世界的に大流行した。
サスーン・カットの特徴は直線的なジオメトリック(幾何学的)・カットであり、1960年代から70年代にかけてマッシュルーム・カットという名でもてはやされた。さらにレイヤー・スタイルでは俗にいう「狼(おおかみ)カット(ウルフ・カット)」を流行させ、その影響を受けたヘアスタイリストたちが70年代後半「サーファー・スタイル」として世界中に広めた。
こうして70年代、80年代はサスーンを中心とするロンドン発のヘアスタイルがすべてといった勢いであったが、その後さまざまなアレンジでエレガントなラインを発信するフランス型も加わり、多様化していく。
[横田敏一]
1980年代から90年代になると、ムースやジェルなど仕上げ剤の発展とも相まって、ノン・ブローのさまざまな質感を表現するスタイルが登場した。一方、わが国では83年以降「ワンレン・ボディコン」ということばが流行し、ロングヘアのワンレングス・スタイル一色に染まるなど、流行に偏る傾向がみられた。また短めのヘアスタイルを好む女性には、ツーブロック・カットというトップと周辺を連結せず、ユニ・セックス(両性的)なスタイルがスパイキー・スタイルや刈上げスタイルとして流行した。
1990年代に入ると、カラーやパーマ・スタイリング剤にさまざまなものが登場した。これにあわせて、95年以降わが国ではヘアカラー・ブームが第二次世界大戦後2回目の大流行をみせ、老若男女を問わずにヘアカラーを楽しむ風潮が21世紀に入っても続いている。同時に、90年代後半のわが国のヘアスタイルの特徴として、毛先を軽くそいで透明感を求める「シャギー・スタイル」が、カリスマ美容師ブームとも重なりマスコミに注目されるようになった。
21世紀、年齢の違いを意識させず、また環境への配慮を伴ったユニバーサル・デザインの概念が広まってゆくと予想されるなか、それにふさわしいヘアスタイルも次々と開発されていくことだろう。
[横田敏一]
ヘアスタイルの歴史は人類誕生とともに始まり、いずれの国にも、その民俗性を彩るさまざまな変遷がある。宗教や政治、呪術(じゅじゅつ)や成人儀式などと深い関係をもち、その国の元首や皇帝などがヘアスタイルの流行に大きな影響力をもっていた。
[坪内靖忠]
一般的には髪を結ぶ、切る、剃(そ)るなどの方法でスタイルを形成した。もっとも清(しん)朝の弁髪や蒙古(もうこ)人、アメリカ先住民、オセアニア先住民などのように、ほとんど髪を剃り落とす例もある。西欧では古代ギリシア時代から、現在のヘアスタイルに近い形で推移し、髪の長短による多少の違いはあっても、基本的には簡素なもので、くせ毛による毛先のカールが唯一のデザイン的要素となっていた。18世紀から19世紀にかけては、大きなカールのあるかつらや、金粉をつけた装飾的なヘアスタイルが出現し、階級制度による権威の象徴として制限や規制が加えられたこともあった。
[坪内靖忠]
第二次世界大戦後、ヘアスタイルは世界40か国の理・美容業界組織が加盟する世界理・美容連盟Confédération Internationale de la Coiffure(CIC、本部パリ)において発表されるようになった。毎年春・夏、秋・冬のニューラインが世界の理・美容業界に向けて発信される。こうして得られたニューラインは加盟各国において公表され、ヘアファッションの主流として流行するという流れが形成された。
1970年代から85年までにCICで発表されたおもなヘアスタイルには次のようなものがある。
オルセー パリのセーヌ河畔にあるオルセーの町並みをイメージして、古い建築物が建ち並ぶ雰囲気を髪形に表現したもの。クラシックなセンターパート(中央分け)のロングヘアスタイル。
ピロット パイロットの意。風に吹かれて髪が後方に流れるムーブマン(動き)を表現したもの。
コレクション ミュンヘン・オリンピックにちなんだ名称で、スポーティかつ自由なバリエーションで表現したもの。
ミュルティプル 多様化の時代を反映し、子供から大人までの年代を四つに分ける。共通のポイントはパーマヘアでメッシュ(網目)を表現したこと。
バリアブル 変化の意味。顔にあわせて毛髪の量感に変化をもたせたムーブマンを表現。
コスモ 宇宙のイメージから、若々しくダイナミックで個性的な演出ができるよう、レザー・カットを駆使したスタイル。
マルリー スポーティなヘアスタイルで、幅広い年齢層に適応できる。サイドは耳を出したショートヘアで、もみあげはシャープにカット、フロントはTPOにあわせてスタイリングする。
アンペール・アンド・パース 頭頂部は適度なカットでボリュームを出し、襟元はすっきりさせたショートヘア。アンペールimpairのネーミングが示すように、左右非対称がポイント。
コンペティション 清潔感あふれるショートなヘアスタイル。フィンガーワークで無造作に仕上げたもので、襟元をすっきりカットし、男らしさを強調したもの。
[坪内靖忠]
1980年代後半以降、女性ファッションの著名なデザイナー(ブランド)が男性部門も手がけるようになり、そのコレクション発表に出演する男性モデルのヘアスタイルが大きく流行を左右するようになった。個性化・多様化がいっそう進み、男性ヘアスタイルをひと口では語れないようになってきた。
2000年代初めの海外の傾向は、ヤング主導のファッションから落着いた大人主導に移りつつある。ヘアスタイルも先進的なものよりも保守的な傾向が強く、自然で清潔感・ソフト感のあるヘアスタイルがより好まれている。
[坪内靖忠]
『エーリッヒ・ケルナー著、乾桂二訳『ヘアスタイルの歴史』(1972・女性モード社)』▽『リチャード・コーソン編、藤田順子訳『西洋髪型図鑑』(1976・女性モード社)』▽『名和好子著『美しい髪の歴史』(1979・女性モード社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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