ベッソン(読み)べっそん(その他表記)Luc Besson

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベッソン」の意味・わかりやすい解説

ベッソン
べっそん
Luc Besson
(1959― )

フランスの映画監督、プロデューサーパリ生まれ。1976年、高校を中退し映画監督を目ざす。学校には通わず、パリの映画制作会社ゴーモンハリウッドのユニバーサル・スタジオで、さまざまな分野のアシスタントの仕事をしながら、映画製作の技術を学ぶ。1978年から短編映画を撮り始め、長編処女作『最後の戦い』(1983)がアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭(1973~1993年フランス東南部アボリアッツで開催された、ファンタジー、サイコスリラー系映画の映画祭)で注目される。低予算でつくられたこの映画は、環境の激変文明が破壊されたのちの近未来世界白黒の映像で描き、登場人物たちは大気汚染のため言葉をしゃべれないという設定で台詞(せりふ)をいっさい除くという独創性が話題となり、ベッソンはそれまでフランス映画界の弱点といわれたSFファンタジーのジャンルの希望と目された。やはり近未来の世界を描いた第二作『サブウェイ』(1984)は、ゴーモンの出資とイザベル・アジャーニIsabelle Adjani(1955― )、クリストフ・ランベールChristoph Lambert(1957― )というスターを得、興行的にはヒット、しかし批評家の評価は前作に及ばず、莫大な予算、スターの出演、観客と批評家の評価のへだたりはいずれも、これ以降ベッソン作品に一貫する特徴となる。

 第三作は実在ダイバーの物語『グレート・ブルー』(1988)、エリック・セラEric Serra(1959― )の音楽と深い海の映像のつくり出す新鮮さで熱狂的支持を集め、1980年代の代表的カルト映画となる。その後も、海洋生物のドキュメンタリー『アトランティス』(1991)を例外として、『ニキータ』(1990)、『ニキータ』の脇役殺し屋を主人公とした『レオン』(1994)、『フィフス・エレメント』(1997)などのアクション映画を次々とヒットさせる。1990年代後半からしだいにプロデューサーとしての活動に重心を移し、『TAXi』(1997、監督ジェラール・クラウジックGérard Krawczyk(1953― ))、『YAMAKASHI ヤマカシ』(2001、監督アリエル・ゼトゥンAriel Zeitoun(1945― ))、『WASABI』(2001、監督クラウジック)など、やはり娯楽色の強い作品を手がけている。また米仏合作の監督作『ジャンヌ・ダルク』(1999)は、興行的には大ヒットに至らないものの、批評家からは一定の評価を受けた歴史スペクタクルである。ベッソンは、現代フランスの、もっとも「ハリウッド的」な監督だといえよう。

[芳野まい]

資料 監督作品一覧

最後から2番目の男 L'avant dernier(1981)
最後の戦い Le dernier combat(1983)
サブウェイ Subway(1984)
グレート・ブルー Le grand bleu(1988)
ニキータ Nikita(1990)
アトランティス Atlantis(1991)
グラン・ブルー(「グレート・ブルー」完全版) Le grand bleu : version longue(1992)
レオン Léon(1994)
マリン・ブルーの瞳 Pull Marine(1996)
フィフス・エレメント The Fifth Element(1997)
ジャンヌ・ダルク Joan of Arc(1999)
アンジェラ Angel-A(2005)
アーサーとミニモイの不思議な国 Arthur et les Minimoys(2006)
アーサーと魔王マルタザールの逆襲 Arthur et la vengeance de Maltazard(2009)
アデル ファラオと復活の秘薬 Les aventures extraordinaires d'Adèle Blanc-Sec(2010)
アーサーとふたつの世界の決戦 Arthur et la guerre des deux mondes(2010)
The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛 The Lady(2011)

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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