劇や映画の登場人物で,主役と端役(はやく)の中間の重要さをもつもの,またそれを演じる俳優。主役とはその人を中心にして劇が展開する人物で,一般に登場場面もせりふも多く,観客に強い印象を与えるのに対し,端役は一般に登場場面もせりふも少なく,ときには集団の一人として現れたり,名まえをもっていなかったりする。脇役は普通は名まえをもち,ある程度の登場場面やせりふをもつが,劇の展開について主導権を握るところまではいかない。だが個々の戯曲についてある人物が脇役かどうかを判定することは,必ずしも容易ではない。シェークスピアの作品を例にとると,《ハムレット》においてデンマーク王子ハムレットが主役であり,デンマークの宮廷の兵士たちが端役であることには議論の余地がないが,デンマーク王クローディアスはどうであろうか。彼はハムレットの復讐行為の対象であり,主役と対立する敵役であるから,劇全体において占める位置では確かに主役に劣るが,脇役とは呼べないかもしれない。またオフィーリアは,重要さにおいてはクローディアスにも劣るが,ハムレットの愛情の対象であり,主役の相手役であるから,これまた脇役とは呼べないかもしれない。これに対してオフィーリアの父ポローニアスやハムレットの親友ホレーショーは確かに脇役である。前者は偶然から殺されてはしまうが,ハムレットとクローディアスの対立とはもともと無関係な人物である。後者はハムレットが信用してすべてを打ち明ける唯一の人物だが,劇の中心的な事件とはかかわりがなく,劇を通じてみずからは運命の変化を経験しない。
ホレーショーのような腹心役は,侍女や傅育(ふいく)係といった人物としてフランス古典悲劇によく登場するが,これは脇役の一つの典型である。また,悲劇の中に喜劇的な要素を持ち込んで,観客の緊張をほぐしたり,逆にかえって中心的状況の悲劇性を際だたせたりするコミック・リリーフの役割を果たす人物も脇役といえる。登場場面は少ないが,《ハムレット》の墓掘りや《マクベス》の門番がそれであり,登場場面の多い《リア王》の道化も一面ではそういう機能を果たしている。《リア王》は,リア王と3人の娘たちをめぐる主筋と,リアの臣下グロスター伯爵と2人の息子をめぐる脇筋とから成るが,便宜的定義をあえてすれば,脇筋の人物がすなわち脇役だということもできる。さらに便宜的な見方をすると,人物でなくそれを演じる俳優の側から脇役を定義づけることもできる。つまり,各種の演劇賞などの選考において助演賞の対象になる俳優が演じている役が脇役だと考えるのである。例えばブロードウェー演劇を対象とするトーニー賞には,助演男優賞と助演女優賞という部門があるのがそれである。
なお,日本の能のワキはシテを中心とする劇の展開を助けるという意味で,また狂言のアドはシテに対して副次的な役であるという意味で,いずれも一種の脇役であるといえる。
執筆者:喜志 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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