日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホルムストローム」の意味・わかりやすい解説
ホルムストローム
ほるむすとろーむ
Bengt Robert Holmström
(1949― )
フィンランド出身の経済学者。ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ大学を卒業(数学・物理学学士号)後、1975年にアメリカのスタンフォード大学修士号、1978年に同大学博士号を取得した。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院準教授、エール大学経営大学院教授を経て、1994年からマサチューセッツ工科大学教授を務めている。2016年に契約理論の分析モデルを確立した功績で、ノーベル経済学賞を受賞した。ハーバード大学教授のオリバー・ハートとの共同受賞である。
1970年代までの契約理論では、利害が対立するプリンシパル(依頼人、経営者など)とエージェント(代理人、従業員など)がいかに協力して利益をあげるかを分析する手法(プリンシパル・エージェント理論)については、さまざまな説が乱立していた。ホルムストロームは経営者と従業員の間の雇用・賃金契約に着目し、1979年の論文「Moral Hazard and Observability」で、ゲーム理論を使って従業員のやる気(インセンティブ)を引き起こすにはどのような業績指標を給与・報酬体系に採用すべきかを明確にした。さらに1987年の論文「Aggregation and Linearity in the Provision of Intertemporal Incentives」で、経営者にとってもっとも好ましい報酬制度が「固定給プラス歩合給」というシンプルな形であることを示し、契約理論を成果主義や業績連動報酬制度を分析する有効なツールとして発展させた。ホルムストロームの確立した分析モデルは雇用・賃金分野だけでなく、不祥事などのコーポレートガバナンス(企業統治)問題、保険会社の保険契約設計、金融危機における流動性問題、学校教育における教師のインセンティブ、医療分野での診療報酬制度など幅広い分野に応用されている。なおホルムストロームは1999年から2012年までフィンランドの通信機器会社ノキアの取締役を務めた。
[矢野 武 2017年3月21日]