会社法では、株式会社形態を採用する会社の実情を踏まえ、また、従来の有限会社規律との一本化を図るために、すべての株式会社に株主総会と1人以上の取締役という最低限の機関設計を義務づけ(会社法295条、326条1項)、公開会社、監査役会設置会社、委員会設置会社を除いて、取締役会の設置を任意とした(同法326条2項、327条1項)。したがって、取締役の地位と権限は、機関設計によって異なる。取締役会非設置会社の取締役は、各取締役自体が会社の業務執行権と代表権を有する会社の機関である。取締役会設置会社の取締役は、取締役会を構成する一員であって、各取締役自体はただちに会社の機関となるわけではない。取締役会非設置会社では、原則的に各取締役が会社の業務執行を行い(同法348条)、単独で会社を代表する(同法349条1項本文・2項)。委員会設置会社以外の取締役会設置会社では、取締役全員で取締役会を構成し、取締役会が会社の業務執行を決定する(同法362条2項1号)。取締役会では代表取締役を選定し(同法362条2項・3項)、代表取締役が会社の業務執行を行い(同法363条1項)、会社を代表する。委員会設置会社では、原則的に取締役会の権限は会社の基本的事項の決定と業務執行の監督(同法416条)が中心となり、業務執行を行うのは執行役である(同法418条)。
[戸田修三・福原紀彦]
取締役は株主総会の普通決議によって選任する(会社法329条1項)。2人以上の取締役を選任する際には、定款で排除されない限り、株主は累積投票によって取締役を選任するように請求できる(同法342条)。なお、累積投票について説明しておく。通常は取締役を複数選任する際には1人ずつ決議がなされるが、累積投票制度を導入すると、1議決権につき取締役を選任する人数分だけ票を与え、いちどきに取締役全員に対して選任決議が行われる。このようにすると、少数派株主の候補者であっても、取締役として選任される可能性が高くなる。通常の株主総会決議は、定款によって定足数を排除しているのであるが(同法309条1項)、取締役の地位の重要性にかんがみ、あまりにも少数の人間によって選任される危険を排除するため、議決権の3分の1以上までは定足数を必要とするものとした(同法341条)。取締役と会社とは委任関係である(同法330条)ため、通常の委任関係の終了事由によって終任する。他方、会社はなんどきでも、事由のいかんを問わず、株主総会普通決議によって取締役を解任することができる(同法339条、347条、341条)。ただし、累積投票によって選任された取締役の解任には特別決議が必要である(同法309条2項7号)。定足数の加重については選任決議と同様である(同法341条)。
[戸田修三・福原紀彦]
公開会社では定款によっても取締役の資格を株主に限定することができない(会社法331条2項本文)。取締役の人材を幅広く集めるためである。ただし、非公開会社では定款で取締役の資格を株主に限定することが認められている(同法331条2項但書)。閉鎖性を確保するためである。また、会社法は取締役の欠格事由を定めており(同法331条1項)、法人・成年被後見人・被保佐人・一定の犯罪者は取締役とはなれない。
[戸田修三・福原紀彦]
なお、2019年(平成1)12月成立の改正会社法(令和1年法律第70号)により、欠格事由から「成年被後見人・被保佐人」が削除された(2021年3月施行)。ただし、成年被後見人・被保佐人が取締役等に就任するためには、成年被後見人(後見監督人がある場合は成年被後見人および後見監督人)・被保佐人の同意を得たうえで、成年被後見人・被保佐人にかわって就任の承諾をしなければならない、などの条件がある(会社法331条の2)。
[編集部 2022年4月19日]
取締役会非設置会社では取締役は1人で足りるが(会社法326条1項)、取締役会設置会社では取締役は3人以上でなければならない(同法331条4項)。
[戸田修三・福原紀彦]
取締役の任期は原則として選任後2年である(会社法332条1項)。非公開会社(委員会設置会社を除く)では定款によって、任期を選任後10年に伸張することができる(同法332条2項)。委員会設置会社の取締役の任期は、選任後1年である(同法332条3項)。会計監査人設置会社および監査役会設置会社で、剰余金配当等の権限を取締役会に与えた場合も、取締役の任期は選任後1年である(同法459条1項)。
[戸田修三・福原紀彦]
会社と取締役の間は委任関係である(会社法330条)ので、取締役は職務を行うにあたり、会社に対して善良な管理者の注意を遂行する義務を負う(民法644条)。それとともに、会社のために忠実にその職務を遂行する義務(忠実義務)を負う(会社法355条)。一般に両者は同一の義務であると解されている。このような一般的義務を受け、会社法では具体的に、競業取引、利益相反取引における義務が規定されている(同法356条、365条1項)。
[戸田修三・福原紀彦]
取締役の全員で構成される合議制の会議体であり、業務執行につき会社の意思を決定するとともに、取締役の職務の執行を監督する機関である(会社法362条1項・2項)。公開会社、監査役会設置会社、委員会設置会社では取締役会の設置が義務づけられる(同法327条1項)。取締役会は、会社法または定款により株主総会の決議事項とされた事項を除き、会社の業務執行すべてにつき決定する権限を有し、代表取締役の選定・解職(同法362条2項3号)など法の各所に取締役会の権限と明示された事項のほか、重要な財産の処分または譲受け、多額の借財、支配人その他の重要な使用人の選解任、支店その他重要な組織の設置・変更・廃止、社債の募集、内部統制システム(取締役の職務の執行が法令および定款に適合すること、その他会社の業務の適正を確保するための体制)整備に関する決定、取締役等の責任の一部免除など、重要な決定を行い、これらは取締役にゆだねることができない(同法362条4項)。
[戸田修三・福原紀彦]
『あずさ監査法人著『新会社法による取締役・執行役・監査役実務のすべて』(2006・清文社)』▽『経営法友会会社法問題研究会編『会社法対応 取締役ガイドブック』全訂版(2006・商事法務)』
株式会社および有限会社の業務執行(代表)機関の構成員。取締役と監査役を合わせて会社の役員と呼ぶことがあり(証券取引法5条1項など),俗にいう重役もこの両者をさすことが多い。株主や社員は数が多く,頻繁に会合することはできないうえ,経営の専門的知識も十分でないから,取締役に会社の経営をゆだねることになる。取締役の数が多くなると,さらにそのうちの一部の者に実権が集中しがちである。
株式会社においては,業務執行機関が取締役会という合議体になっているため,その構成員である取締役は3名以上必要である(商法255条)。取締役は株主総会の決議によって選任される。任期は2年であるが,任期中でも株主総会の特別決議によって解任できる。広く人材を求めることができるようにするため,株主以外の者は取締役になれないという制限を設けることは許されない(254条2項)。一定の刑罰を受けた者などは取締役になることができず,在任中にそのような欠格事由が生じると取締役の地位を失う(254条ノ2)。取締役のおもな職務権限は,取締役会に出席しその決議に参加することである。ほかに若干の訴訟を提起するなどの権限があるが,取締役であるからといって当然に,会社の業務を執行したり会社を代表する権限を持つわけではない。そのような権限を持つのは代表取締役である。代表権はないが会社内部の業務執行を分担する取締役(業務担当取締役)を取締役会の決議で選ぶこともできる。
取締役は,会社したがって株主全体の利益になるように,その職務を遂行しなければならない(忠実義務。254条ノ3)。取締役が会社の利益を犠牲にして私益を図る危険を防ぐため,その行為は制約を受ける。取締役と会社との間の取引(自己取引。265条)とか,会社の取引先を奪いかねない取引(競業行為。264条)については,取締役会の承認を得ることが要求され,また,取締役の報酬額は定款または株主総会決議で定めることとして(269条),お手盛りを防いでいる。これらの違反があったり,取締役が職務の遂行に際し注意を怠ることによって,会社に損害が生じた場合,取締役は会社に対し損害賠償責任を負い,その違法な行為が取締役会の決議に基づいてなされたときは,決議に賛成した取締役も責任を負う(266条)。さらに,計算書類等に虚偽の記載をするなどして,会社以外の第三者に損害を生ぜしめた場合,取締役は被害者に対して直接に賠償責任を負う(266条ノ3)。社会における企業の役割,および企業における取締役の地位が重要さを増すにつれ,これらの責任が重視される傾向にある。
取締役の職務遂行を慎重に行わせるため,株式会社の業務執行は取締役会という合議体が決定することとされている(商法260条1項)。その決定の実行まで取締役全員が共同で行うのは不便であり,また日常業務の決定についても同様であるから,これらは代表取締役が行う。重要な業務執行事項は取締役会の決議によって決定しなければならず,それを代表取締役その他に任せきりにすることは許されない。定例取締役会は月1回程度しか開かない会社が多く,より頻繁に開かれる常務会などに実質的な審議の場が移る傾向が見られるが,重要な業務執行であるかぎり法律上は取締役会が決定することが必要である(260条2項,280条ノ2第1項,296条など参照)。
取締役会はこのほか,代表取締役や業務担当取締役の職務の執行を監督する機関でもある。代表取締役などが職務を適正に執行することを確保するため,取締役会はそれらの者に適宜指示を与え,またそれらの者から報告を受ける。監督の裏付けとして,取締役会は代表取締役などを選任・解任する権限を持つ(261条1項)。資本金1億円超または負債総額200億円以上の会社では,取締役会自体の職務執行も含めて監査役が監査し,それが効果的にできるよう,監査役も取締役会に出席して意見を述べ,場合によっては取締役会を招集する権限を与えられている(商法260条ノ3。商法特例法(略称)25条)。しかし,取締役会の決議に参加できるのは取締役だけである。
有限会社の取締役は1名あれば足り,数名いるときでも各人が会社を代表する(有限会社法25,27条)。取締役会を置くことは法律上要求されていない。取締役が数名いるとき,業務執行はその過半数で決めるが,定款で取締役会の制度を定めていなければ,会議を開かなくとも,なんらかの方法で過半数の賛成が明らかになればよい(26条)。他の多くの点では株式会社の取締役と大差ないが(とくに有限会社法32条),会社との取引や競業行為については社員総会の認許が要求される(29,30条)。
執筆者:龍田 節
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出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…すなわち,48年に株金分割払込制度を廃止したのに続いて,50年にはアメリカの制度を広範にとり入れた大改正が行われた。それは,(1)授権資本制度等を採用することにより資金調達の便宜を図る,(2)株主総会の権限を縮小すると同時に取締役会制度・監査役制度を改正して会社運営機構を合理化する,(3)少数株主権の強化,取締役の責任の厳格化等により株主の地位の強化を図る,ことを主眼点とするものであった。その後の株式会社法の改正としては,62年の計算(企業会計)を中心とする商法改正,資本自由化を前にした66年の株式の譲渡制限・譲渡方法等に関する改正,粉飾決算にからむ大型倒産を機に監査役の地位強化と会計監査人制度の導入を柱とした74年改正等が行われたが,74年改正の直後から,会社法の全面的見直しおよび改正の作業が始まり,81年に改正が実現した。…
…また仮に能力があっても,多くの株主がいっせいに経営に参画すれば意見一致に至るまで莫大な時間と費用がかかる。したがって近代株式会社では,取締役(会)に会社財産の運用を軸とした企業の経営一般を包括的に委任しているのである。 ところで取締役には,当該企業の株式を大量に保有することを一つの有力な基盤として取締役に選任されている大株主取締役あるいは株主代表の取締役がいる。…
…社員には原則として新出資引受権が認められる(51条)。法律上代表取締役・取締役会制度はなく,会社の業務執行代表機関は取締役であり,その員数・任期についても制限はない(25条)。有限会社の監査役は任意機関であり,会計監査権限を有するにすぎない(33,33条ノ2)。…
…外部に対して法人を代表するとともにその内部的な事務を執行する法人の機関(民法52条)。会社では,このような機関につき取締役という語が用いられており,理事は通常,公益法人において用いられている。理事は,数人ある場合もそれぞれが法人を代表する権限を有するのを原則とするが,通常は定款や寄付行為によって代表理事(理事長)1名に代表権を集中している(53,54条。…
※「取締役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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