改訂新版 世界大百科事典 「ホンソメワケベラ」の意味・わかりやすい解説
ホンソメワケベラ
Labroides dimidiatus
スズキ目ベラ科の海産魚。体の前部と後部が黒褐色と黄色の2色に染め分けられているソメワケベラL.bicolorという近縁種があるが,本種は同じ属でほっそりしているところからホソソメワケベラと名付けられたが,いつのまにか誤ってホンソメワケベラとなってしまった。分布が広く,インド洋~太平洋,紅海とアフリカ東岸から南アフリカまで分布する。日本では千葉県小湊以南に見られる。全長12cmほどの小型種。淡青色の地に幅広い1暗色縦帯が吻端(ふんたん)から尾の先までとおり,体の後半で太くなる。幼魚は体全体が黒っぽく,淡青色の縦帯が背方を走り,以前は別種とされクロソメワケベラL.caeruleo-lineatusの名がつけられていた。浅い海の岩礁やサンゴ礁にすむ。夜は岩やサンゴ礁の隙間に入って眠るが,アオブダイなどと同じように粘液の膜で体のまわりに寝袋をつくることがある。産卵期は初夏である。雄はハレムをつくり,なわばりを守る。ペアでもつれ合いながら表層に泳ぎのぼり,放卵放精する。ハレムの雄をとり除くと,順位の高い雌が雄に性転換する。
掃除魚としてもっとも有名な種で,他の魚の体表やえらについた寄生虫(おもにコペポーダ)を食べる。個体ごとに自分の場所があり,身をくねらせるような独特の泳ぎをしていると大型魚がこの掃除ステーションを訪れる。ある観察では6時間に300尾の掃除をしたという。この掃除の習性は体長2cmほどの稚魚でもすでに見られ,チョウチョウウオのえらの寄生虫を食べるという。チョウチョウウオも飲み込まないようにえらの大きな開閉はこの間は止める。
本種にそっくりの種にニセクロスジギンポがある。口がやや腹側についていたり,腹びれがホンソメワケベラより前に出てのどのところにあるなど,よく見れば違うが,体型,体色が非常によく似ている。この魚は他魚の皮膚やひれを餌とする奇妙な魚で,ホンソメワケベラをよそおい,大型魚に近づき,ひれなどを食いちぎって逃げる。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報