改訂新版 世界大百科事典 「チョウチョウウオ」の意味・わかりやすい解説
チョウチョウウオ (蝶々魚)
スズキ目チョウチョウウオ科魚類の総称,またはそのうちの1種を指す。チョウチョウウオ科Chaetodontidae魚類はスズメダイ科魚類と並んでサンゴ礁魚類の代表で,その美しい色彩,斑紋は,水族館でも,家庭の水槽でも,またダイバーたちにも人気が高い。チョウチョウの名は世界的なもので,英語はbutterfly fish,フランス語はpapillon,中国語は領胡蝶魚である。熱帯,亜熱帯の暖海に広く分布し,その範囲はサンゴ礁の分布とほぼ重なる。これを水温で見ると北半球,南半球とも夏の時期(7月と1月)の水温が21℃の線の中に分布が見られる。一般に浅いところにすむ。ただし,例外もあって,サンゴ礁の発達限界の外や,あるいは30m以深に分布する種もある。Chaetodon miliarisという種は生息範囲が非常に広く,稚魚はタイドプールでも見られるが,成魚は水深30~60mのところに多く,200m以深でも観察されている。
サンゴ礁と関連が深いが,この類はサンゴ礁を住みか,隠れ家としており,外敵に襲われるなど危険を感ずるとサンゴの枝の間や隙間に逃げ込む。体高が高く,扁平で隙間に逃げ込むのにつごうがよい。また,サンゴ礁にすむ豊富な小型の生物を餌にするとともにサンゴのポリプ自体も食べる。種類によって違うが,ヤリカタギのように消化管の中はサンゴポリプだけでいっぱいという種もある。このほかおもにプランクトンを食べるもの,小型甲殻類を食べるもの,サンゴ礁に着生する藻類を食べるものなどいろいろあり,それぞれに適合した吻(ふん)の形態が見られる。一般に昼間,活発に摂餌し,夜はサンゴの中などに入って眠り,簡単に採集できるが,チョウハンは夜,暗くなってからサンゴの中から出てくる生物を餌としているらしい。この類には,威嚇するときには,ひれをいっぱいに広げ,棘(きよく)を立てて敵に向かうとか,他種の外部寄生虫をとる掃除魚の習性とか興味ある習性が知られている。単独でくらすもの,ペアをつくってくらすもの,群れをつくるものとさまざまである。産卵習性はよくわかっていないが,やはりペアをつくって産む場合と,群れ産卵とがあるのであろう。産卵期は日本の周辺では春から初夏とされているが,ハワイでは1~2月と推定されている。本科の魚類は金平糖のような形のトリクチスtholichthysという特別の幼生期をもつ。
チョウチョウウオ科は140種ほど知られているが,日本周辺ではトゲチョウチョウウオ,フウライチョウチョウウオ,チョウチョウウオ,チョウハン,ヤリカタギ,ミスジチョウチョウウオ(以上チョウチョウウオ属),フエヤッコダイ,ハタタテダイ,ハシナガチョウチョウウオなど7属46種が記録されている。多いのはチョウチョウウオ属の35種で,本州でもよく見られるのがチョウチョウウオChaetodon auripesである。沖縄などでは全長20cmに達するが,本州では10cm前後まで。なお,本種の学名は最近までC.collareが用いられていたが,これは他種との混同である。
最近までチョウチョウウオ科の亜科として含まれていたキンチャクダイ科は非常に近縁で,えらぶたの下縁に後ろ向きのとげがあることで区別される。やはり美しいサンゴ礁魚類で,タテジマキンチャクダイ,サザナミヤッコなど稚魚,若魚,成魚と成長段階で色彩,斑紋がまったく異なる種が含まれる。チョウチョウウオ科魚類では成長段階での色彩の変化はない。どちらも食用魚としては重要でない。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報