日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボイノービチ」の意味・わかりやすい解説
ボイノービチ
ぼいのーびち
Владимир Николаевич Войнович/Vladimir Nikolaevich Voynovich
(1932― )
ロシアの作家。中学卒業後、石工、牧童、飛行機技師、鉄道技師、全ソ連ラジオ放送校閲者などの職を転々としたのち、1960年に詩人としてデビュー、『宇宙飛行士の歌』で有名になる。中編小説『われらはここに住む』(1961)以後、散文に転じ、『正直者でありたい』(1963)、『客車にて』(1965)など、地方生活を舞台にした風刺作品や、帝政ロシアの女性革命家ベーラ・フィグネルВера Фигнер/Vera Figner(1852―1942)の伝記『信頼の等級』(1972)を発表。代表作の風刺長編小説『兵士イワン・チョンキンの華麗なる冒険』は背が低くお人好しの兵士チョンキンの遍歴を通してソビエト社会の荒唐無稽(むけい)な現実を痛快に風刺したもので、国内で発禁ののち、1973年に西側で出版され、続いて『メトロポールホテル事件』(1975)、『イワニキアーダ、または作家ボイノービチの新居移住の物語』(1976。邦訳『同志イワニコの偉大なる権力』)も西側で出版されるに及んで、作家同盟を除名された。その後、旧西ドイツに出国。1981年にソビエト市民権を剥奪(はくだつ)されてから90年の復帰まで西側で作家活動を続ける。この時期の代表作にアンチ・ユートピア的な長編風刺小説『モスクワ2042年』(1986)がある。ソビエト連邦崩壊後、モスクワで5巻選集(1993~95)も刊行された。絵画にも優れ、1996年にはモスクワで個展を開く。ロシアペンセンター会員、プリンストン大学教授、マーク・トウェーン協会メンバーなどを務める。
[安井侑子]
『安井侑子訳『兵士イワン・チョンキンの華麗なる冒険』(1977・パシフィカ)』▽『安井侑子・長谷川蟻訳『同志イワニコの偉大なる権力』(1979・パシフィカ)』