日本大百科全書(ニッポニカ) 「ぼた餅」の意味・わかりやすい解説
ぼた餅
ぼたもち
牡丹餅とも書き、餅菓子の一種。糯(もち)米と粳米(うるちまい)を等量に混ぜて炊き、軽く搗(つ)いたものを適当の大きさにちぎって丸め、小豆餡(あずきあん)やきな粉をまぶしたもの。ぼた餅は萩(はぎ)の餅、おはぎともいう。春秋の彼岸(ひがん)には仏前に供え、近隣相互に贈答を交わし、親睦(しんぼく)を図った。春の彼岸につくるものをぼた餅、秋の彼岸につくるものを萩の餅、おはぎと称したといわれる。また餡をつけたものがぼた餅、きな粉をまぶしたものはおはぎともいうが、いずれも定説ではなく、今日では春秋にかかわりなく、ぼた餅ともおはぎともよばれている。
彼岸のころを中心に和菓子屋の店頭にもあるが、本来は家庭でつくる菓子で、「ぼた餅で頬(ほお)を叩(たた)かれるよう」というたとえが「うまい話」の意であるように、ぼた餅は家庭での「うまいもの」であった。しかし餅菓子としての姿は見栄えのするものではなく、やぼったい菓子、あか抜けしない菓子とされてきた。「ぼた」には炭鉱での屑(くず)炭の意味があるほか、方言ではボロ、ボロ布(神奈川県三浦郡、島根県那賀(なか)郡)、水けのある土地(新潟県佐渡島)、太っている者(山口県大島、長崎県平戸)、大きなかたまり(静岡県庵原(いはら)郡)の意もある。また顔が丸く大きくて不器量な女性をぼた餅顔といったり、屑米(くずまい)をぼた米といい、ぼた米でつくった餅をぼた餅とする説もある。これらの説を総括したものがぼた餅には含まれているようである。ぼた餅にはまた「隣知らず」「夜舟」(ともにいつ搗(着)くかわからないの意)、「奉加(ほうが)帳」(搗(付)くところも搗かぬところもある)、「北の窓」(月知らず、半搗きの餅を使うのでいう)などの異名もある。
[沢 史生]