物品を贈ること、またその返礼をすること。感謝、同情、共感などの具体的表現として行われる。種々の機会に食物や品物を贈り合う風は、年々定期に繰り返されるものと、不定期に行われるものとがある。定期に繰り返されるものとして季節的には新年、中元、歳暮、節供、彼岸などがある。不定期に行われるものとして、祝い事には結婚、出産、新築あるいは誕生日祝いなど、凶事には死亡、法事や病気・災害の見舞いなどいろいろある。相手や場合によって適当なものを選ぶが、親しい間柄では、まえもって好みのものを聞いたり、品物が重複しないように、あらかじめ打ち合わせたりすることもある。また商品券やギフト・チェック、旅行券などを贈ることもあるが、贈答品には場合によって禁忌があるので注意を要する。
贈り物に水引をかけ、熨斗(のし)を添えるのは、細い注連縄(しめなわ)をかけ、鮑(あわび)を添えた名残(なごり)で、こうしたことから神事に伴う贈答の原義をみることができる。普通、吉事の場合は、二枚の包装紙を用いて右前にあわせ、金銀あるいは紅白・金赤の水引を両輪(もろわ)または鮑結びにし、熨斗をつけるが、結婚の場合に限り二は一対とみなし、包装紙は紅白一枚ずつを用い、水引は結び切りか鮑結びにする。凶事の場合は、一枚の包装紙を左前にあわせ、黒白または白の水引を結び切りとし、熨斗はつけない。
贈答の風習は、もとは共食に由来し、一つの火で煮炊きしたものを分かち合って食べることにより、個人や集団の相互間に、あるいは祭事のあとの直会(なおらい)によって神と人との間に強いつながりをつくるという意義があったが、これが信仰性を離れ、単なる義理として行われるようになった。共食の名残を示すものとしては、贈り物を受けた場合、器のすみにその一部を残して返すとか、オタメ、オトビ、オウツリなどといって、半紙やマッチなどを入れて返す習慣にみられる。
[丸山久子]
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…現代においても一方では前近代の虚礼,農村の陋習(ろうしゆう)といわれながらもいまだ根強く,H.ベフの調査(京都,1969‐70)によれば一世帯当り月平均8.1回の贈物をしその費用は月収の7.5%にのぼるという。ことに中元と歳暮は戦後ますます盛んとなりデパートを中心にその売上げは急増し,世界に類をみない民族的大贈答運動が繰り広げられている。
[日本]
日本には謝罪・感謝・依頼あるいは愛情のしるしとして一時的になされる贈物のほか,中元・歳暮をはじめ年始・彼岸・節供など毎年定期的に繰り返される贈答,出産・年祝・結婚・葬式といった通過儀礼の際や病気・火事・新築・引越し・旅行などの際の贈答,およびそのお返しやおすそ分けなど慣習化された贈答の機会がきわめて多い。…
…長野県伊那谷ではタノムサマという神を田の際に祭る。 こうした農耕行事はすでに鎌倉時代には武家社会にもひろがり,互いに贈答をかわし祝う風習が盛んとなり,弊害もあったのか,将軍家へのものを除いて禁止の命令が鎌倉幕府から出された。同じころ公家社会でも行われていたことが花園天皇の日記にみえる。…
…現在,灯籠流しだけは一種の観光行事として行われるときがある。【植木 久行】
[日本の民俗]
中元という語は,本来は単に7月15日のことを指したが,日本では近代に至りこれにちなむ贈答が慣習化した。近世までの文献にはこの日とくに贈答を行った記事はみられず,この贈答の成立には古くからあった盆礼,八朔(はつさく)礼,暑中見舞などの贈答習俗がかかわっている。…
※「贈答」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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