改訂新版 世界大百科事典 「ポプリスモ」の意味・わかりやすい解説
ポプリスモ
populismo[スペイン]
英語ではポピュリズムPopulismという。大衆を支持基盤とした政治運動。ラテン・アメリカではメキシコのカルデニスモ(L.カルデナス),ブラジルのバルギスモ(G.D.バルガス),アルゼンチンのペロニスモ,ペルーのアプリスモ(アプラ),ボリビアのMNR(国民革命運動),ベネズエラのAD(民主行動党)などがその典型例とされる。これらの運動にほぼ共通する特色としては,(1)労働者や中産階級さらに一部の上流階級を含む多階級的な支持基盤をもち,(2)カリスマ的リーダーによって指導され,(3)反帝国主義,民族主義的イデオロギーを有し,(4)農地改革や労働者の保護政策により,大衆の生活水準の向上を企図するが社会の抜本的変革は志向せず,(5)階級闘争よりも階級調和を重視する点で共産党とは一線を画する,といった特質を挙げることができるだろう。
こうした性格をもつ運動がラテン・アメリカでなぜ多く出現したかに関しては,社会心理的解釈と階級構造論的解釈に大別されよう。前者は,運動への参加の動機をリーダーシップをとる上・中流階級と支持層を形成する下層とに分かち,上・中流階級の場合は,彼らのおかれた社会的ステータスが脅かされた(たとえば大富豪の出身者が社会変化に適合しえず困窮化する)ことへの反発として現状の打破を目ざすポプリスモに参画したとみる。下層大衆については,彼らの多くが農村出身の新労働者で都会生活になじめず,〈操作されやすい大衆〉をなしていたため,上からの扇動的なアピールに引きつけられたとする。これに対して階級構造論的解釈は,ポプリスモが発展を遂げたのが1930年代以降であったことに注目し,それを大恐慌に伴う経済危機に対する資本家・中産階級の対応とみる。当時なお社会層として脆弱(ぜいじやく)な資本家層が下層大衆の支持を取りつけつつ工業化の促進を図ったのがポプリスモだったというのである。下層大衆の参加に関しては,階級構造論者の一部は社会心理的解釈を受け入れ,大衆の操作されやすさを強調するが,大衆の自発的参加を主張する論者もいる。なお,ポプリスモはすでに触れたように多くの場合抜本的変革には批判的だが,キューバにおいてポプリスモ的な性格の強かった,カストロの指導する〈7月26日運動〉が社会主義革命を生み出し,キューバ革命に刺激を受けた一部のポプリスモ運動が急進化(たとえばアプラ反乱派の誕生など)したことは,ラテン・アメリカのポプリスモの幅の広さとそれを一般化することの難しさを物語るものであろう。
執筆者:松下 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報