日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポーエル」の意味・わかりやすい解説
ポーエル
ぽーえる
Anthony Dymoke Powell
(1905―2000)
イギリスの小説家。ロンドンに生まれ、イートン校からオックスフォード大学に進む。第二次世界大戦では陸軍情報部に属して少佐まで進んだ。作家としての生涯は『昼下がりの男たち』(1931)に始まる『期待から死へ』(1933)など戦前の五つの長編と、戦後に発表した『躾(しつけ)の問題』を第1巻とする全12巻の大河小説『時の音楽』の二期に分かれる。大家として認められたのは『時の音楽』シリーズ(1951~1986)の刊行中である。その題材は上流中産階級の人生だが、とくに「メイフェアとソーホーの接する地点」(ウォルター・アレン)、つまりやや奇矯で冴(さ)えない貴族たちとボヘミアン的な芸術家たちが接触する世界を描くところが特色。その1920、1930年代の雰囲気をとらえた戦前の作品には、ウォーやハクスリーに通じる性格があるが、これに実業家や軍人も加えて、濃密な人間関係から成り立つ上流中産階級の人生を断片的な経験の集積として構築した、凝った文体と奇人趣味が顕著な『時の音楽』シリーズは、きわめてイギリス的な作品である。
[小野寺健]