マテリアルゲノム計画(読み)まてりあるげのむけいかく(その他表記)Materials Genome Initiative

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マテリアルゲノム計画」の意味・わかりやすい解説

マテリアルゲノム計画
まてりあるげのむけいかく
Materials Genome Initiative

最新の情報技術や計算科学を駆使し、優れた新材料の発見から実用化までのスピードを2倍に早める計画。アメリカ政府がホワイトハウス主導で2011年から始めた国家プロジェクトである。英語名の頭文字をとってMGIと略してよばれるほか、日本では材料ゲノム計画といわれることもある。2000年代に、膨大なDNAデータをコンピュータ解析技術やデータ管理技術を駆使して解析し、生命科学に革新をもたらしたヒトゲノム(遺伝情報)解析計画になぞらえ、情報技術や計算科学を応用して材料分野に技術革新をもたらすため、マテリアルゲノム計画とよばれる。計画にゲノムの名がついているが、かならずしも遺伝情報を利用するわけではない。

 通常、金属有機化合物無機化合物など未知の新材料は、素材を知り尽くした専門家が物理学や化学知見や経験則に基づき、職人芸的な試作実験を繰り返し、10~20年かけて開発されることが多い。マテリアルゲノム計画は、すでに存在する材料関連の膨大なデータをコンピュータで解析し、そこから素材の組成、構造、特性、製造法などに関する法則性などを抽出し、新材料開発のスピードアップにつなげる取り組みである。アメリカ政府は年間1億ドル強の予算を投じ、クリーンエネルギー国家安全保障、生活向上などにつながる新材料の短期開発を目ざしている。従来型の職人芸的な材料開発に長(た)けている日本の企業や大学に対抗する意味合いもある。アメリカに対抗し、中国では中国科学院と中国工学院が連携して中国版マテリアルゲノム計画(China MGI)に着手し、韓国は2015年から10年計画で同様のクリエイティブ・マテリアルズ・ディスカバリー・プロジェクトに取り組んでいる。日本では2015年(平成27)から、政府が日本版マテリアルゲノム計画「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」を始めた。しかし材料分野の専門家からは、膨大なデータの解析だけで新材料の開発につながるかどうかは疑問だとの懐疑的な声もある。

[編集部 2016年3月18日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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