ゲノム(読み)げのむ(英語表記)genome

翻訳|genome

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲノム」の意味・わかりやすい解説

ゲノム
げのむ
genome

生物の生活機能を営むうえで必要な遺伝子を含む1組の染色体ゲノムを構成する染色体の基本数は生物の種によって固有で、1ゲノムの中には相同の染色体は含まれていない。一つのゲノムをAで表すと、一般に二倍性の細胞は二つのゲノムを含むからAAとなり、生殖細胞卵子精子)は減数分裂によって一つのゲノムを含むのでAで表される。高倍数性の生物では二つ以上のゲノムが含まれている。ゲノムという用語は1920年にウィンクラー半数(ハプロイド)の染色体の1組に与えたものである。さらに、1930~1950年にわたるコムギの細胞遺伝学的研究を行った木原均(きはらひとし)は、その概念を拡張してゲノムを次のように定義した。「ゲノムは染色体の1組であって、これを構成する染色体が協力して完全な生活環境および生活現象を営み、かつ進化に応ずる単位である」。生物のゲノムの構成を明らかにし、ゲノムと遺伝子との関係、ゲノムの変遷、種の由来および進化過程を明らかにすることをゲノム分析とよぶ。ゲノム分析の理論木原によって確立された。すなわち、(1)相同のゲノムの間には対応する相同の染色体が存在する。(2)相同の二つのゲノムをもつ生物では、減数分裂において相同染色体間に接合がおこり二価染色体が形成されるが、異種間雑種では相同染色体がないので二価染色体は形成されない。これら二つの理論がゲノム分析の根拠となっている。

[吉田俊秀]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲノム」の意味・わかりやすい解説

ゲノム
genome

ある生物がもつすべての染色体を1組分だけ取りそろえたもの,すなわち単相の細胞に含まれる全染色体をいう。通常の生物の体細胞は,2組のゲノムをもつことになる。 H.ウィンクラーの提唱した (1920) 用語であったが,木原均はこれを別の見方から定義し直して,その種が正常に生き続けていくのに必要なひとそろいの染色体の組をゲノムと呼んだ (30) 。この意味でのゲノムは,単相核における染色体の全部というものにほぼ等しく,通常の体細胞はゲノム2組,配偶子はゲノム1組をもつことになる。倍数化した種は,体細胞において4組,6組,…などのゲノムをもつ。キク科などにその例がある (染色体本数が,ハマギク 18,シマカンギク 36,ノジギク 54,シオギク 72など) 。またいわゆる複二倍体は,異なる祖先種の核が合流して1個の核となった種であり,祖先種でのゲノムを AAおよび BBと表わせば,複二倍体種のゲノムは AABBである。

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