マリゴケ(その他表記)moss ball

改訂新版 世界大百科事典 「マリゴケ」の意味・わかりやすい解説

マリゴケ (毬蘚)
moss ball

特定コケの種を指すのではなく,種々の原因で多数の個体が球状に集合したコケの総称。猪苗代湖のマリゴケが有名で,湖底に群生する蘚類ミズスギゴケヒロハノススキゴケDicranella palustris (Dicks.) Crundw.ex Warb.の植物体がちぎれて,波の運動によって水底で回転してしだいに球状になったもの。まれに大量に発生して岸に打ち上げられる。この湖底の群落は1935年に〈猪苗代湖ミズスギゴケ群落〉として国の天然記念物に指定された。猪苗代湖では苔類のイナワシロツボミゴケJungermannia nipponica (Sak.et Takah.) Hatt.のマリゴケも記録されている。北海道の屈斜路湖では蘚類のクッチャロカギハイゴケDrepanocladus fluitans (Hedw.) Warnst.var.kutcharokensis Kandaが同様な成因で馬糞状のマリゴケをつくる。高山では蘚類のミヤマギボウシゴケGrimmia elongata Kaulf.などのマリゴケが見られる。これは小石が雨や風などによって回転するとともに,その全面にコケが生えて球状となったものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリゴケ」の意味・わかりやすい解説

マリゴケ
まりごけ / 毬苔
moss ball

湖沼などの水底で水の運動によって小石などが転がり、この石の上に生えていたコケ類が石を中心としてしだいに球形の塊となったものをいい、特定の種名ではない。したがって、マリゴケをつくるコケ類は、水中にも生育することのできる種類となる。そのおもなものは、ヤナギゴケAmblystegium riparium、ヒロハノススキゴケDicranella palustris、イナワシロツボミゴケJungermannia nipponicaなどである。

 福島県猪苗代(いなわしろ)湖にみられるマリゴケは国の天然記念物に指定されている。このマリゴケはヒロハノススキゴケからできているものがほとんどで、かつてみられたイナワシロツボミゴケによるものは、今日ではごくわずかとなっている。このほか、日本では北海道の阿寒(あかん)湖、屈斜路(くっしゃろ)湖から同じようなマリゴケがみいだされている。外国ではヨーロッパ、アラスカ、南アメリカ南部などの湖沼からみつかっているが、マリゴケをつくるコケ類は、日本のものとは種類を異にしている。

[井上 浩]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マリゴケ」の意味・わかりやすい解説

マリゴケ(毬蘚)
マリゴケ

岸辺の水面近くまたは湖沼の水中に繁茂したコケ類の群叢が水や波の運動によって削り取られ,水底で回転するうちに藻類マリモと相似状になったものをさす。これを形成するコケ類としてはヤナギゴケ,イナワシロツボミゴケ,ヒロハノススキゴケなどが知られている。北海道の屈斜路湖,阿寒湖のものが有名である。また福島県猪苗代湖のヒロハノススキゴケのマリゴケは天然記念物に指定されたが,現在はほとんど絶滅状態である。

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世界大百科事典(旧版)内のマリゴケの言及

【猪苗代湖】より

… 強酸性の酸(す)川を支流にもつ長瀬川が流入するため,湖の水はpH4~5と酸性を示し,湖にすむ生物相も限られており,魚類もウグイやフナ程度である。北岸の浅瀬にはミズスギゴケの群落がみられ,水流作用でまり状にかたまる特徴があるので〈マリゴケ〉ともいわれるが,近年は少なくなった。また北岸の白鳥浜や西岸の崎川浜(さつかはま)には冬期間ハクチョウ類が多数渡来する。…

【コケ植物(苔植物)】より

…クサリゴケ科の小さな種は,しばしば常緑樹やシダの葉上に生育するので,葉上苔(ようじようごけ)と呼ばれる。阿寒湖と屈斜路湖のヤナギゴケ,猪苗代湖のヒロハノススキゴケは湖底に生育し,波の運動によって回転してまり状となるのでマリゴケと呼ばれる。
[利用]
 ミズゴケは腐りにくく吸水および保水の能力が著しいので,ランやオモトなどの植込みの材料として用いられる。…

【藻】より

…水中に生えている植物。もともと水生生活をする藻類だけでなく,陸上植物から水生に変わったアマモやキンギョモなどの顕花植物,サンショウモやミズニラなどのシダ植物,マリゴケなどのコケ植物も漠然とまとめて呼ぶ。【堀田 満】。…

※「マリゴケ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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