改訂新版 世界大百科事典 「マルグリットドナバール」の意味・わかりやすい解説
マルグリット・ド・ナバール
Marguerite de Navarre
生没年:1492-1549
フランスの女流作家。国王フランソア1世の姉,ナバール公妃,アンリ4世の祖母。当時有数の知識人であり,カトリック教会権力の圧迫から人文主義者や福音主義者を庇護し,〈フランスのミネルウァ〉として敬愛された。プラトン主義と融合した内面的神秘主義的なその信仰は,画一的・保守的なカトリックとも,教条主義的なカルバン派とも相入れず,双方の批判を浴び,家庭的な不幸も加わり孤独の晩年を送った。多忙な公務の余暇に宗教的想念に満ちた抒情詩や宗教劇・俗劇を残したが,いずれも真の愛の探究や愛の渇望,あるいは形式化した信仰の風刺をテーマとする。代表作とされる《エプタメロンHeptaméron》(1559)もまた,《デカメロン》に枠組みを借り艶笑文学的題材を扱いながら,人間的愛憎の諸相に対する鋭い観察と,〈愛とは何か〉という一貫した問いかけによって,近代心理小説への道を開いている。
執筆者:二宮 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報