ミラレパ(読み)みられぱ(その他表記)Mi la ras pa

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミラレパ」の意味・わかりやすい解説

ミラレパ
みられぱ
Mi la ras pa
(1040―1123)

チベット仏教の一派カーギュッパbka rgyud pa(カギュ派)の苦行者、詩聖。つねに身にレパ(綿服)を着けて修行・遍歴したミラ(家名)の意。西部チベットのガリ地方グンタンの地の生まれ。幼時に父を失い、叔父に財産を横領されて貧苦の生活を送った恨みを晴らす目的で呪術(じゅじゅつ)を習得して叔父一族を絶滅させたが、のちに罪業の深さを悔いて密教の大修行者マルパmar pa(1012―1097)について仏道の修行に励み、ついに秘儀の伝授を受けた。禁欲、放浪、岩窟籠(がんくつこも)りなど身を削るような厳しい苦行を行い、多くの奇瑞(きずい)・霊験(れいげん)を示現して、84歳で禅定(ぜんじょう)中の岩窟から天空に消えたといわれる。その伝統は弟子のガムポパsgam po pa(1079―1153)を通じてマルパを開祖とするカーギュッパとよばれるチベット仏教旧派の一宗として今日まで存続している。彼の自叙伝『ナムタル』rnam tharと歌謡集『グルブム(十万頌(じゅ))』mgur bumはいまもチベット人が賛嘆し愛唱する、チベット民間伝承文学の数少ない傑作のなかでもっとも古いもの。

川崎信定 2017年4月18日]

『河口慧海著『苦行詩聖ミラレパ――ヒマーラヤ山の光』(1931・日本蔵梵学会/改訂新版・『河口慧海著作選集 3』2010・慧文社・所収)』『J. W. de Jong ed.Mi la ras pa'i rnam thar, texte tibétain de la vie de Milarépa, Indo-Iranian Monographs, vol.Ⅳ (1959, 's-Gravenhage)』『Toni SchmidThe Cotton-clad Mila, Tibetan Poet-Saint's Life in Pictures (1952, Stockholm)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミラレパ」の意味・わかりやすい解説

ミラレパ
Mi-la ras-pa

[生]1040. マンユル,クンタン
[没]1123
チベットの聖者,道歌集『グルブム』の作者。チベット仏教のカーギュ派の開祖マルパの弟子。初め黒呪術などを学んで人を殺したこともあったが,改心してマルパの門に入り,苦行に専念して師から秘儀を伝授された。晩年吟遊詩人として,あるいは岩窟に住んできびしい禁欲生活をおくり,師の宗風を宣揚した。教義よりも信仰実践を重視し,民衆教化に努め,チベットにおける詩聖として,また理想的行者として尊崇されている。

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