改訂新版 世界大百科事典 「ムカシウサギ」の意味・わかりやすい解説
ムカシウサギ (昔兎)
後肢と耳が非常に短い原始的なウサギ。ウサギ目ウサギ科ムカシウサギ亜科Palaeolaginaeの哺乳類の総称。始新世後期(約4000万年前)に出現し,漸新世から中新世にかけてアジアと北アメリカで栄え,13属が知られたが,鮮新世末に出現し,洪積世に栄えたウサギ亜科のものに生活の場を奪われてほとんど絶滅し,今日ではアマミノクロウサギPentalagus furnessi(英名Ryukyu rabbit),3種のアカウサギPronolagus(英名red rabbit),およびメキシコウサギRomerolagus diazi(英名volcano rabbit)の3属5種が残存するのみである。いずれも下あごの第3前臼歯(ぜんきゆうし)の構造に著しい特徴がみられ,その歯を咬面(こうめん)から見ると内側と外側から深い切れ込みがあり〈呂〉の字形を呈し,〈コ〉の字形のウサギ亜科のものと異なる。
アマミノクロウサギとアカウサギは鮮新世の後期にユーラシアにいたプリオペンタラグスPliopentalagusから分岐したとされ,プリオペンタラグスは中新世後期から洪積世前期までユーラシアと北アメリカで栄えたアリレプスAlilepusから生じている。同じころ,このアリレプスからもう一つ重要な子孫のネクロラグスNekrolagusが北アメリカで生じているが,これが現在繁栄しているウサギ亜科のものの祖先である。メキシコウサギはアリレプスとあまり変化しておらず,直系の生残りと考えることができる。
アカウサギ(ナタールアカウサギP.crassicaudatusほか2種)はアフリカ東部から南部に分布し,体色は赤みの強い褐色である。体長35~50cm,尾長5~10cm。岩地や森林の縁にすみ,夜行性で,危険を察知すると岩の間などに逃げ込む。メキシコウサギはメキシコ中部のポポカテペトル火山を中心とした山岳地帯に分布し,背面は暗褐色,腹面は暗褐色を帯びた灰色である。体長27~32cm,尾は外観上はない。標高2800~3200mの下草の茂ったマツ林にすみ,地中の穴や積み重なった岩の間などを巣とする。おもに夜行性だが,日中もしばしば活動する。春と夏に1産2子前後を出産するらしく,妊娠期間は38~40日である。生息数は非常に少なく,1000~1200頭と見積もられ,絶滅の危機に瀕している。
執筆者:今泉 忠明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報