メタリン酸(読み)めたりんさん(英語表記)metaphosphoric acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メタリン酸」の意味・わかりやすい解説

メタリン酸
めたりんさん
metaphosphoric acid

オルトリン酸H3PO4から水1分子がとれた組成をもつリン酸。一般式(HPO3)nで示される。分子構造の違う2種類が知られている。一つは四面体構造のPO4が連なったポリリン酸で、もう一つは環状構造の(PO3)nn-を含むcycloシクロ)-リン酸である。その形状からガラス状リン酸、氷(ひょう)状リン酸などともよばれる。前者は、オルトリン酸を加熱脱水するか、熱リン酸に五酸化二リンP2O5を溶かして得られる。一般式Hn+2PnO3n+1で、重合の程度が大きくなり、nがきわめて大きくなると(HPO3)nに相当する。nの値が小さい、たとえばH5P3O10トリポリリン酸、H6P4O13はテトラポリリン酸などと俗称される。通常は種々の重合度の混合物である。これらのイオンの構造は、たとえばn=4の[P4O13]6-では図Aのようである。後者は、たとえば五酸化二リンを氷水にゆっくりと溶かして得られるcyclo-四リン酸(HPO3)4などである。各種のcyclo-リン酸(HPO3)nが得られており、いずれも普通無色のガラス状固体。比重2~2.5で潮解性。(HPO3)3cyclo-三リン酸は三メタリン酸、(HPO3)4cyclo-四リン酸は四メタリン酸などと俗称されている。たとえばcyclo-四リン酸イオン(PO3)44-は、四面体型のPO4がOを橋架けとして四つ環状に結合した図Bのような構造である。

 通常のメタリン酸は各種のポリリン酸やcyclo-リン酸の混合物で、市販品は固化させるためのメタリン酸ナトリウムが加えてある。水に溶け、水溶液加水分解のため-O-P-O-の鎖が徐々に切れ、長時間放置するとオルトリン酸になる。熱すると融解して粘度が増加し、糸を引くようになり、さらに熱すると昇華する。エタノールアセトンなどに溶ける。ポリリン酸は、他の酸と違って比較的高温で酸として作用するという特徴をもっている。石油化学工業においてアルキル化、脱水、重合、異性化反応の触媒となる。金属の化学研磨、アスファルト添加剤、界面活性剤原料などに用いられる。また尿中タンパクの検出などに用いられる。

[守永健一・中原勝儼]


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改訂新版 世界大百科事典 「メタリン酸」の意味・わかりやすい解説

メタリン(燐)酸 (メタりんさん)
metaphosphoric acid

化学式(HPO3n。その形状から,ガラス状リン酸,氷状リン酸とも呼ばれる。微生物,昆虫類などに存在し,細胞中での核酸合成に必要なリンを供給していると考えられている。n=3,4のものが最も重要で,三メタリン酸,四メタリン酸などと俗称されるが,正しくはcyclo-三リン酸,cyclo-四リン酸という。すなわちPO43⁻の縮合のしかたが環状となっているのである。n=5,6,7などのものも分離されている。

 ふつう無色ガラス状物質で,比重2.2~2.5。水に溶ける。エチルアルコール,アセトン,無水酢酸などにも可溶。これをメタリン酸Ⅰと呼ぶ。メタリン酸Ⅰを加熱すると加熱温度によって,それぞれメタリン酸Ⅱ,Ⅲ,Ⅳと呼ばれるものとなる。水溶液中では加水分解してオルトリン酸となり,この反応は加熱するか強酸の存在で促進される。硝酸銀によって白色のメタリン酸銀を沈殿する。

 (1)オルトリン酸またはピロリン酸を加熱脱水する,(2)五酸化二リンを熱しながらオルトリン酸に溶解する,(3)リン酸二水素アンモニウムを熱分解する,などの方法でつくられる。いずれも種々の重合度の混合物として得られる。

Na⁺,K⁺,NH4⁺等を含むオルトリン酸二水素塩を加熱脱水してそれぞれの塩が得られる。また,メタリン酸水溶液に陽イオンを加えれば生成する場合もある(Ca2⁺,Ag⁺,Pb2⁺,Mn2⁺等)。メタリン酸ナトリウム(NaPO3nはリン酸二水素ナトリウムNaH2PO4脱水縮合によって生成するが,反応温度,加熱時間,冷却速度などによって種々の形態のものが得られている。400℃以下ではマドレル塩Maddrell's saltと呼ばれる難溶性塩が得られる。ピロリン酸二水素塩Na2H2P2O7を経て500℃程度にまで熱するとcyclo-三リン酸ナトリウムNa3(PO33が生成する。無色の固体で,融点627.6℃,比重2.476,屈折率1.478。溶解度21g/100g(水)。水に溶かして結晶化すると6水和物が得られる。溶融してから急冷するとガラス状のメタリン酸ナトリウムとなる。これはグレアム塩Graham's saltと呼ばれ,重合した無限鎖高分子構造をもつ。同様な無限鎖構造はメタリン酸カリウムにおいてもみられる。吸湿性で水に易溶。水溶液はCa2⁺などと錯イオンを生成してイオン活性を封ずるので,工業用硬水軟化剤,助染剤などとして用いられる。
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化学辞典 第2版 「メタリン酸」の解説

メタリン酸(塩)
メタリンサンエン
metaphosphoric acid(metaphosphate)

メタリン酸は (HPO3)n(80.0n)のIUPACが使用を認める慣用名.配位化合物表記に対する2005年IUPAC命名法による体系名はcatena-ポリ(ヒドロキシドオキシドリン-μ-オキシド).多数の四面体型のPO4が,両側のPO4と頂点のO原子を共有してつながった長い鎖状分子になり,組成式を[Hn+2PnO3n+1] ≒ [(HPO3)n]とみなしうるものをいう.PO4単位が100個以上つながったものもある.短い鎖状のものはポリリン酸といい,たとえば,catena-四リン酸H6P4O13の慣用名はテトラポリリン酸である.一方,環状につながったものは,環の大小にかかわらず組成式は[(HPO3)n]で,本来のメタリン酸で,Chemical Abstract方式では環状のもののみをメタリン酸という.慣用として,たとえばn = 4のcyclo-四リン酸H4P4O12は四メタリン酸.さらに拡大して,縮合リン酸の意味に使用されることがあるが,これは正しくない.cyclo-三リン酸ナトリウム [NaPO3]3(略号STMP)[CAS 7785-84-4]は,NaOHと容易に反応してトリポリリン酸ナトリウムNa5P3O10[CAS 9010-08-6]となる.アスコルビン酸(ビタミンC)の安定剤などとして使用される.cyclo-四リン酸アンモニウム [NH4PO3]4[CAS 14693-64-2]は,濃アンモニア水とP4O10をかくはんすると得られ,プラスチックの難燃剤に使われる.[NaPO3]n[CAS 10361-03-2],[NH4PO3]n[CAS 13446-46-3]も知られている.鎖状ポリマーのグラハム塩 [NaPO3]25~50 は水溶性のガラス状固体で,浄水処理に使用される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「メタリン酸」の解説

メタリン酸

 (HPO3)n.ガラス状リン酸もしくは氷状リン酸ともいう.直鎖状のポリリン酸と環状リン酸の混合物.食品の結着力,保水力の増強,その他の目的で使われる.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メタリン酸」の意味・わかりやすい解説

メタリン酸
メタリンさん

「リン酸」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のメタリン酸の言及

【五酸化二リン(五酸化二燐)】より

…強吸湿性である。水に溶けてメタリン酸HPO3となり,さらに温水ではオルトリン酸H3PO4となる。六方晶系のものおよび気体では,リン原子は一つの正四面体の各頂点にあり六つの酸素が各稜上に位置し,残りの四つの酸素はその正四面体の軸上のリンの上にある。…

※「メタリン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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