ヤノネカイガラムシ
Unaspis yanonensis
半翅目マルカイガラムシ科の昆虫。雌雄異形で,雌は無翅,無脚,雄は1対の翅をそなえた成虫となる。殻皮殻と虫体からの分泌物で特有の介殻を形成,かんきつ類の枝,幹,葉面,果実などに固着して吸汁,加害する。雌の介殻は紫褐色~灰紫褐色,長さ2.5~3.5mmで名のように矢の根(やじり)形を呈する。雄の介殻は雪白色,小型でもろい。雄は集合して寄生する傾向が強い。中国の四川省,貴州省付近が原産地と推定され,日本には明治末期に侵入した。1907年長崎県で発見されて以来,急速に全国各地のかんきつ栽培地帯に広がり,しばしば大繁殖して大害をもたらす害虫として恐れられている。年間2世代,暖地では3世代を繰り返し,おもに成虫で越冬する。繁殖は卵胎生に近く,産卵後1時間以内に孵化(ふか)し,雌成虫は長期にわたって産卵をつづける。80年,原産地からの天敵ヤドリバチの導入に成功,天敵放飼いによる駆除がはかられつつある。
執筆者:河合 省三
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ヤノネカイガラムシ
やのねかいがらむし / 矢根貝殻虫
[学] Unaspis yanonensis
昆虫綱半翅(はんし)目同翅亜目マルカイガラムシ科Diaspididaeに属する昆虫。雌の貝殻は細長く、2.8~3.5ミリ。濃い褐色で、縁は灰白色。背面中央には顕著な縦稜(じゅうりょう)がある。雄の貝殻は小さく、1.2~1.5ミリ。白色で背面には3本の縦稜がある。雌成虫は無翅で、体節は明瞭(めいりょう)。雄成虫は細長く約0.6ミリ、はねの開張が1.8ミリ内外。体は橙黄(とうこう)色で、触角は長く10節からなる。年3回発生し、雌成虫で越冬する。ミカン類の茎、葉、果実に寄生して黒色化させるすす病を併発して大害を与える。中国原産で、日本全土に分布する。天敵として、ヒメアカボシテントウ、クロテントウなどが知られる。
[林 正美]
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ヤノネカイガラムシ
Unaspis yanonensis
半翅目同翅亜目マルカイガラムシ科。雌の貝殻は長さ 3mm内外,細長く濃褐色で中央に隆条があり,灰白色に縁どられる。雄の貝殻は長さ 1.4mm内外,白色で細長く,背面に3隆条がある。年3回発生し,柑橘類の枝や葉に寄生して大害を与える。中国原産で,本州以南の日本全土に分布する。 (→マルカイガラムシ )
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世界大百科事典(旧版)内のヤノネカイガラムシの言及
【カイガラムシ(介殻虫)】より
… 寄生をうけた植物は吸汁による直接の被害に加えて,しばしばすす病やこうやく病が誘発されて衰弱する。寄主植物は種によって異なり,ミカンの大害虫[ヤノネカイガラムシ]はミカンにのみ寄生するが,イセリアカイガラムシIcerya purchasiや[ルビーロウカイガラムシ],サンホーゼカイガラムシComstockaspis perniciosaなどは多くの果樹・植木類に寄生して被害を与える。薬剤による防除はむずかしいが,天敵の利用はきわめて有効である。…
【天敵】より
…これまで農作物害虫などの生物的防除に成功している天敵は,特定の害虫だけを攻撃する寄生バチや寄生バエがほとんどである。日本において生物的防除によい効果をあげたとされているものとしては,上記のベダリアテントウのほかにリンゴワタムシに対するワタムシヤドリコバチ,ミカントゲコナジラミに対するシルベストリコバチが挙げられるが,最近中国より導入されたヤノネキイロコバチもヤノネカイガラムシの防除に有効なことがわかってきている。 防除に生物を使うという意味で,害虫や害獣に寄生してそれらをたおす病菌やウイルスなども天敵と呼ばれることがあり,雑草を昆虫や魚を利用して退治することも生物的防除と呼ばれる([総合防除])。…
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