柑橘類(読み)カンキツルイ(その他表記)citrus fruit

デジタル大辞泉 「柑橘類」の意味・読み・例文・類語

かんきつ‐るい【××橘類】

ミカン科のミカン属・キンカン属・カラタチ属の植物の総称。また、その果実。ライムシトロンザボンダイダイオレンジポンカンユズなど。シトラス。
[類語]晩柑蜜柑オレンジだいだい金柑枳殻からたち

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精選版 日本国語大辞典 「柑橘類」の意味・読み・例文・類語

かんきつ‐るい【柑橘類】

  1. 〘 名詞 〙 ミカン科のうち、ミカン状果を持つ果樹の総称。また、その果実の一般名。ミカン、グレープフルーツ、レモン、ザボンなど。柑類。
    1. [初出の実例]「柑橘類でも熱い土地の産は肉も袋も総て柔かで且つ甘味が多い」(出典:病牀六尺(1902)〈正岡子規〉一〇一)

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改訂新版 世界大百科事典 「柑橘類」の意味・わかりやすい解説

柑橘類 (かんきつるい)
citrus fruit

ミカン科Rutaceaeの果樹。温帯域のリンゴやブドウ,熱帯域のバナナとともに熱帯から暖温帯にかけて栽培され,生産量も多い主要な果樹。日本ではウンシュウ(温州)ミカンが代表的。古くは橘,柑,柚,橙,枳などの字がそれぞれにあてられていたが,これらを柑橘と総称するようになったのは江戸中期以降といわれる。

かんきつ類とされるものは,ミカン科ミカン亜科に所属する多数の種で,スウィングルW.T.Swingleの分類による〈真正カンキツ類〉の6属または田中長三郎の分類による〈カンキツ連〉の4属に所属するものである。しかし,通常はカラタチPoncirusキンカンFortunellaミカン属(カンキツ属ともいう)Citrusに含まれるものをかんきつ類という。

 カラタチ属はカラタチP.trifoliata Raf.1種だけを含む。枝に長大なとげをもつ,落葉性,葉は3小葉からなる複葉,開花期が早く日本南部では4月,果実の表面に短毛が密生するなどがミカン属と異なる。染色体数はn=9でミカン属と同じ。変種に枝のねじ曲がった飛竜,雲竜がある。キンカン属は2亜属に分類され数種が所属する。葉の網脈がはっきりしない,果皮に甘みがある,室数が少ないなどがミカン属と異なる特徴である。染色体数はミカン属と同じで,属間の交雑が可能。ミカン属は果樹として重要な種を多く含む。かんきつ類は種子をつくる胚珠の珠心細胞が分裂し,交配なしでも新しい胚を多数形成する無配生殖を行うものが多い。また種間雑種も容易に形成される。そのため,はっきりした形質を有する多くの栽培品種の群(園生種)が育成され分化してきた。分類は混乱しており,スウィングルはミカン属を16種8変種にまとめているが,田中長三郎は各地に分化している園生種を種として認め,約10倍の159種に分類している。ホジソンR.W.Hodgsonは2者の中間をとり,スウィングルの種に25種を加え41種とした。日本の園芸界では田中による分類が多く用いられているが,外国ではスウィングルの分類を用いることが多い。ミカン属の主要な種を表にまとめておく。

 ミカン類はその利用を中心に熟期(可食期)による分類,産業的重要度による分類,用途による分類もされる。熟期ではウンシュウミカン(以下ウンシュウ)のように秋から正月ころに食用にされる早生種,ハッサクのように2月から4月ころに食用にされる中生種,ナツミカンのように4月以降に食用にされる晩生種と3群に大別される。しかし,早生種のウンシュウやネーブルオレンジ(以下ネーブル)でも3~4月ころまで貯蔵して出荷されることがある。また同じ品種群内に早・中・晩生種が分化していることもある。例えばウンシュウは自然条件下で9月に採収できる極早生から,12月に採収する普通温州(晩生)まで多種類の品種を含む。産業的重要度による分類とは,生産量の多いものはそれぞれの種類名で,それ以外は雑柑類としてまとめる方法である。雑柑類は時代とともに多少変化した。例えばハッサク,イヨカン,ポンカンは近年生産量が増えたため雑柑類から独立させられている。また,来歴は不明だが日本原産で明らかに雑種由来とみられるもの,さらにその中で重要度の低いもののみに限定して雑柑類と呼ぶ場合もある。用途により,食用,観賞用,台木用に大別する。食用は生食用,加工用,調理用(香酸かんきつ類)に分けるが,加工専用種はなく兼用種が多い。

かんきつ類を含むミカン亜科植物はインド,東南アジア,オーストラリア,アフリカに分布しているが,アメリカ大陸やヨーロッパには原生していなかった。かんきつ類の祖先と考えられているシトロプシス属Citropsisはアフリカ大陸にのみ分布している。また,インド大陸にはパペダ類のようなかんきつ類の原始型が分布しているが,オーストラリアにはミカン属,キンカン属,カラタチ属は原生せず,近縁のミクロシトラス属Microcitrus,エレモシトラス属Eremocitrusが分布している。現在の主要かんきつ類であるライム,ブンタン,レモン,シトロン,スイートオレンジ(以下オレンジ),ダイダイ(サワーオレンジ),ポンカンなどはインド北東部のアッサムを中心とする地域からブラフマプトラ川流域で,またカラタチやユズは長江(揚子江)上流地域で,キンカンは東南アジアから中国南部で生じたと考えられている。これらのかんきつ類から,自然交雑や突然変異で多くの品種が起源・育成されてきたと考えられる。

 かんきつ近縁種はインド北東部,東南アジア,中国南部に原生するものが多い。また,原始的なかんきつ類はインドおよび東南アジアに多く自生分布し,イネOryza sativa L.の祖先といわれるアジア型ペレニス種の自生分布域に似ている。おそらく,インド方面からの民族の移動と交流に伴い,イネと同じようにこれらの地域に伝播(でんぱ)し,分化していったのであろう。栽培品種の東南アジアの島々への伝播は,アジア系民族による古いものと,ヨーロッパ系民族の植民地支配に伴う16世紀以降のものがある。インドネシアでは現在,ポンカン,タンカン,ブンタン,ライム類が栽培されている。中国での栽培史は古く,ユズ,カラタチは原生していた。前10世紀にはタンゼリンtangerineとユズの記録がある。また,2450年前の墳墓からミカンの種子が発見され,2000年前にはオレンジの記録がある。オレンジ,マンダリンは,かなり早い時期にかんきつ類の原生中枢(インド北東部)から陸伝いに伝播し,品種が分化発達したと思われる。

 ヨーロッパから世界中への伝播も人類の歴史とのかかわりが強い。シトロンはメディア(現,イラン北西部)で原生種となり,前4000年にはバビロニアに伝播していた。しかし,ヨーロッパにシトロンといわれるメディアンアップルMedian appleが知られたのは前300年ころで,アラブの貿易ルートとアレクサンドロスの東征が大きく関係した。シトロンはイタリアの一部に普及し,3世紀には栽培されていた。フランスへは8~9世紀に伝播した。次いでサワーオレンジ,レモン,ライムがヨーロッパに伝わった。これにはイスラム勢力が関係した。ヒジュラhijra(622年)の300年後,10世紀の間にインドからオマーン,イラク,シリア,パレスティナなどに伝わり,さらにエジプトから北アフリカ,シチリア,サルデーニャを経てスペインには12世紀末から13世紀に伝播した。次に関与したのが,7次にわたる十字軍(1096-1270)である。このようにして13世紀中期までにはシトロン,サワーオレンジ,レモン,ライムが地中海沿岸諸国に伝播した。オレンジは15世紀の初期,イタリアの通商ルートで伝わった。また,喜望峰回りの航路発見(1498)後,ポルトガル人は中国に到達(1518)し,優良なオレンジをポルトガルに導入した(1520以降)。これが,後にブラジルでネーブルを生んだポルトガルオレンジであり,地中海沿岸諸国のオレンジ品種群の基になった。

 北アメリカ,中南米諸国へはコロンブスの2回目の航海(1493)以降,新大陸の発見,移民に関連して,多くは西インド諸島から伝播していった。アルゼンチンには1556年にペルー,チリを経てオレンジ,レモンの種子が,また1600年ころパラグアイよりオレンジ,サワーオレンジの種子が導入された。ブラジルに伝播したのは16世紀中ごろである。アメリカのフロリダにかんきつ類が伝播したのは1565年ごろ,アリゾナには1707年ごろ,カリフォルニアには69年である。南アフリカでは1654年にオレンジの栽培が始まり,1920年ごろより急増している。オーストラリアには,1788年に初めてかんきつ類が,ブラジルから導入された。

 日本には古くからタチバナが自生していたが,垂仁天皇の時代にトキジクノカクノコノミ(ダイダイだろうといわれている)が導入されたといわれ,中国,朝鮮半島との交易により,かんきつ類が栽培化された奈良時代には橘(たちばな),甘子(こうじ),柚子(ゆず),阿部橘(あへたちばな)(ダイダイ),枳(からたち)が知られていた。さらに金柑,温州橘(うじゆきつ),蜜柑(みつかん)が導入され,江戸時代初期の文献には九年母(くねんぼ),仏手柑(ぶしゆかん),シトロン,ザボンが,末期のものにはレモン,オレンジが認められる。また,明治以前にウンシュウ,ナツミカン,ハッサク,ヒュウガナツ,ナルト,ヒラドブンタン,サンポウカン,スダチ,カボスなどが生じている。明治以降はグレープフルーツ,ネーブルなどが外国から積極的に導入された。江戸時代までの経済品種は小ミカンで,産地にちなみヤツシロ(八代)ミカン,キシュウ(紀州)ミカンなどと呼ばれていた。現在の主要品種群であるウンシュウが注目されたのは1874-75年以降で,92年ころ普通温州から早生温州が発見された。現在,早生温州がウンシュウ生産量の40%強を占める。

カラタチ属は落葉性だが,ミカン属,キンカン属は常緑性。樹姿は高さ3~5mで半球形になるものが多い。枝にはカラタチ以外でもレモン,ユズのようにとげを生じるものがある。1年生枝は断面が三角形だが,二次的生長がなされた後は丸くなる。ミカン属は混合芽で,日本では5月に,熱帯では乾季に花芽ができ雨季に新芽が伸びて花が咲くが,カラタチ,キンカンはその性質が弱い。総状花序を形成する種と1芽1花のものがある。初生的なものほど花序を形成しやすいが,ユズ区,ミカン区の〈後生カンキツ亜属〉は一般に1芽1花である。新葉を伴わない花は生育過程で葉が退化したもので,直花(じきばな)と呼ばれる。花弁は白色が主だが,やや淡黄ないし淡緑色をおびるもの,レモンのように赤紫色を強くおびるものもある。5弁が基本。新芽は普通黄緑色だが黄色みの強いもの,赤紫色をおびたものもある。しかし,成葉は淡緑から濃緑色。葉の形,大きさは種類により異なる。カラタチは3葉で他属と異なる。葉は葉身と葉柄に分かれ,葉柄に翼葉のみられるものが多い。ブンタン類は翼葉が大きく,ウンシュウは小さい。原始的なパペダ類には葉身より大きいものもある。果実は子房の発達したもので,1g程度のキンカンから2~3kgのブンタン類まである。S字曲線を示して肥大し,12月にいったん停止し,春季再び肥大し始める。形は球(オレンジ),扁球(ウンシュウ),紡錘(レモン),カラー(サンポウカン)が代表的。果皮は厚さ1mmから20~30mmで,油胞,色素を含む外側のフラベドflavedoと一般に白くて軟らかいアルベドalbedoに分かれる。色素はフラボノイドよりカロチノイドが主で,量,構成により黄白,黄,橙,赤橙色などに変異し,リコピンを含むものは桃,赤色になる。アントシアンを含み赤紫色になるオレンジもある。果実はクロロフィルの消失とカロチノイドの増加により色づく。油胞は精油を含み,特有の香りを生じる。精油の主成分はd-リモネンだが30種以上の成分がある。アルベドは種類によって苦みがある。苦味成分にはナリンギン,リモニン,ノミリンなどがあるが,ナリンギンによるものが多い。果肉は4~20室程度に分かれるが,10室前後のものが多い。キンカンは少なく,ブンタンは多い。室(瓤囊(じようのう))には子房壁(内果皮)から発生,生長した多数の砂瓤があり,果汁が蓄えられている。柔軟多汁で酸み,甘みがある。酸,糖含量は種類,品種により異なり,増減の型も異なる。レモンは幼果から成熟果までほぼ6%程度の酸を含む。ウンシュウ,オレンジは成熟に伴い酸が減る。幼果から成熟期までつねに,ほとんど酸のないものもある。果肉色の種類は果皮色とほぼ同じ。種子は大豆から小豆大で,数は1果当り0~100個程度のものまである。2枚の種皮の中に胚がある。色は緑から黄白,白までほぼ連続的に分布する。普通,ブンタン類は白,マンダリン類,キンカンは緑だが,花粉の影響を受け,受精胚は色が変わる。単胚のものと珠心胚が形成される多胚のものがある。多胚が優性形質。

世界のかんきつ生産量は8000万tをこえ,全果実生産量の第1位を占める。北緯40°から南緯40°の間にある国々で栽培され,その産地は熱帯,亜熱帯および温帯の海岸地域に及ぶ。国別生産量ではブラジルが1位で,2位はアメリカである。アメリカ大陸,地中海沿岸地域に大産地が多い。東洋の国々では皮のむきやすい寛皮かんきつ類(マンダリン)とブンタンが多く,日本のウンシュウ,台湾のポンカン,タイのブンタンは有名。中国では多くの種類が栽培され,インドではレモン,ライム類も多い。他の諸国ではオレンジ,グレープフルーツ,レモン,ライム類が多い。イタリアではブラッドオレンジが栽培される。

 日本では25種類以上が栽培されるが,2万t以上のものは6種類ある。ウンシュウが最も多いが,1968,72年の価格暴落で過剰は決定的となった。73年をピークに栽培面積は減少し,他品種,他作目への転換が行われ,品種は多様化している。78年より〈うんしゅうみかん園転換促進事業〉も始まった。それでも全生産量の約8割を占める。2位はイヨカンで,宮内伊予柑の出現で昭和40年代から増産が目だった。3位はナツミカンで,古くから栽培されていたが,1965年ころよりアマナツ(甘夏)が急増し,全体の生産量が伸びた。現在は大半がアマナツである。ハッサクがそれに続くが,古い品種で,昭和30年代から増産が目だった。しかしハッサクの伸びは止まった。次いでポンカン,ネーブルが2万t以上生産されている。ネーブルは栽培が難しい種類であったが,早生,豊産性,高品質の品種が枝変りで発見され,ウンシュウの転換品種の一つとして生産が伸びた。ユズ,カボス,スダチなどの酢ミカン類も生産が多い。レモンは広島などで栽培されていたが,1964年の貿易自由化で衰微した。近年は新鮮な国産レモンが見直されている。昭和40年代に外国から導入されたセミノール,アンコール,マーコット,ノバや,国が育成を推進した清見(きよみ)などの品種が市販されている。

繁殖は接木で行われる。台木は国により,穂部の品種により異なる。日本ではカラタチが用いられ,矮性台で病気にも強いため他の諸国でも普及しつつある。4~5年生より結実し始め,20~40年生が盛期。栽培を限定する要因は国により異なるが,年間600t/10a程度必要とする水と低温が重要。イスラエル,アメリカのカリフォルニア州では用水が,日本では冬季の寒さが最大の限定要因である。種類により樹体の耐寒性は異なる。シトロン,ライム,レモン,ブンタンはひじょうに弱く,イヨカン,オレンジ,ナツミカンも弱い。ハッサク,清見,スダチ,ウンシュウは強い。ユズ,カラタチはきわめて強い。ウンシュウは年平均気温15~16℃のところで栽培され,冬は-5~7℃まで耐える。果実は-3℃以下には耐えない。凍死しない場合でもいったん凍結すると果汁が減少し,苦味成分を含むものでは苦みを生じ,著しく商品価値を落とす。また,寒さは冬季の落葉を増し,生産に大きく影響する。おもな栽培管理作業は土壌管理,病虫害防除,防寒,剪定(せんてい),摘果である。日本ではヤノネカイガラムシ,ミカンハダニ,アザミウマ類が主要害虫である。おもな病気には黒点病,かいよう病,そうか病,ウイルス病がある。近年,高接ぎによる伝搬の機会と病気に弱い品種の増加により,トリステザウイルス(CTV)をはじめとする数種のウイルス病が問題になっている。CTVには弱毒ウイルス利用の免疫利用防除法が一部実用化している。このほかチチュウカイミバエをはじめ,ミカンコミバエ,ミカンネモグリセンチュウ,グリーニング病(ウイルス病)など海外からの侵入がおそれられている病害虫も存在している。貯蔵,選果,荷造り,輸送に関する問題も重視され,とくに中・晩性かんきつ類の虎斑(こはん)症(果皮障害)が問題になっている。

古く,ローマではシトロンを衣服の虫よけ,煎じて解毒などの薬用にしている。中国でかんきつ類の果皮は陳皮として古くから薬用にされていた。日本でも古くから生薬として,凍傷,外傷,風邪,解熱,神経痛などに用いられてきた。また,古代インドなどではかんきつ類の果実が銅製品の洗浄,洗髪,食酢に利用されていたし,大航海時代にはビタミンの補給源として重視された。クエン酸の工業用原料になったこともある。現在のかんきつ類の果実は大半が食用で,一部薬用,飼料,香料に使われる。食用は生果と加工原料に大別される。生食用には甘みと適度な酸みが重視されるウンシュウなどと,香りと酸みが重視されるレモン,スダチなどの酢ミカン類がある。強い酸には,味の調整,栄養的効果のほかに殺菌効果もあり,料理によく添えられる。加工原料としては,ジュースに供されるものが圧倒的に多い。日本ではウンシュウが年間約50万t搾汁されている。外国ではオレンジ,グレープフルーツが果汁用として代表的である。ナツミカン,ポンカン,カボス,最近はイヨカン,ハッサクも果汁にされる。ウンシュウはシロップ漬果肉にも約20万t供され,製品は輸出もされる。ほかにマーマレード,凍結果肉,七味唐辛子,それに砂糖漬,ゆべしなどの菓子類の原料にされる。マーマレードにはダイダイが適するが,ナツミカンなどでもよい。砂糖漬はブンタンが有名であるが,ヨーロッパではシトロンが用いられる。ダイダイは果実が落果せず2年にわたり結実し続けるため,子孫繁栄の縁起物として,正月のお飾りにされる。キンカンなどは鉢物,庭木としても利用される。香りと色を楽しむミカン酒や8~9月の幼果を搾ったジュースも一利用法である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「柑橘類」の意味・わかりやすい解説

柑橘類
かんきつるい

ミカン科(APG分類:ミカン科)のカラタチ属Poncirus、柑橘(ミカン)属Citrus、クリメニア属Clymenia、キンカン属Fortunellaに属する各種、およびこれら4属から派生してきた近縁種の総称。これらのうち柑橘属は果樹のなかではきわめて重要で、多くの種が含まれている。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

原生地と栽培史

柑橘類の原生地はインド、ミャンマー(ビルマ)、マレー半島、インドシナ半島、中国から日本までの広地域にわたるが、とくに東部ヒマラヤおよびアッサム地方と揚子江(ようすこう)上流地方には重要な種の原生地があり、古くから栽培されていた。中国では紀元前1000年前後、周の『詩経(しきょう)』にある「有条有梅」の条は柚(ゆず)で、耐寒性の強い香橙(こうとう)の変種があったと考えられている。前3世紀の『禹貢(うこう)』に桔柚(きつゆ)として記載され、ついで前1世紀の『史記』の「貨殖列伝」によれば、当時、柑橘はナツメなどとともに一つの産業として栽培されていた。その後、7世紀までの本草書には橘(きつ)、柚(ゆ)、甘(柑)(かん)、橙(とう)が記載され、柑橘類の専門書として古い『橘録』(1178)は柑8種、橘14種、橙子(とうし)5種、計27種をあげている。また、王楨(おうてい)の『農書』(1313)にはカラタチ台の接木(つぎき)が記され、こののちは他地域からの導入もあって品種は分化し、栽培は発達した。

 ヨーロッパへの柑橘の導入は前4世紀、アレクサンドロス大王の東征に負うところが大きく、インド原産のシトロンはmedian appleの名で前3世紀に知られ、レモンもシチリア島、コルシカ島などで殖えた。15、16世紀になってスイートオレンジの栽培が行われ、パレスチナからスペインまで広まった。ヨーロッパにマンダリンオレンジが導入されたのは1805年で、その後、実生(みしょう)変異や新導入品種によって、スペインから多方面に栽培が広まった。南アメリカと西インド諸島へはスペインからの移民によってスイートオレンジが伝えられた。北アメリカではフロリダで1600年代の初期にダイダイ類の実生が栽培され、さらにスイートオレンジが1870年代に導入されて柑橘栽培は急速に発展した。また南アメリカで発見されたネーブルオレンジはアメリカ合衆国に伝えられ、カリフォルニアでの柑橘業を大きく発展させ、また西インド諸島で発見されたグレープフルーツはその地方ばかりでなく、フロリダをはじめとするアメリカ南部、メキシコその他の高温地方へと栽培が広まった。

 日本原生の柑橘はタチバナと、沖縄に原生するシィクワシャーだけであるが、柑橘類の栽培は相当に古い。『古事記』中巻、垂仁(すいにん)天皇の章に、「登岐士玖能迦玖能木實者(ときじくのかくのこのみは)、是今橘者也(これぞいまのたちばななり)」とあり、『日本書紀』巻6にも「……二月……、非時(ときじく)の香菓(かくのみ)……、今橘と謂(い)ふはこれなり」とあり、「ときじくのかくのこのみ」は香りの高い柑橘で、田中長三郎によるとダイダイではないかといわれている。『続日本紀(しょくにほんぎ)』聖武(しょうむ)天皇神亀(じんき)2年の章に、甘子を唐国から持ち帰り種子を播(ま)いて育てたとあり、その甘子は乳柑(にゅうかん)の類と考えられている。以後、種々の柑橘が導入されたが、最初にある規模で栽培されたのはコミカンで、熊本県八代(やつしろ)付近と考えられている。『肥後国史』に「神功(じんぐう)皇后三韓(さんかん)を征し、その帰路橘を持ち帰り、これを肥後八代に植え給う」とあるが、本種は中国浙江(せっこう)省から伝来したものといわれている。

 そののち紀州(和歌山県)に伝えられ(1574)、栽培が広まるにつれ紀州ミカンの名でよばれるようになり、温州(うんしゅう)ミカンの普及するまで、もっとも重要な種類であった。温州ミカンは田中長三郎により鹿児島県長島で発生したと推定され、明治初期以後栽培が増え、青江系(1882)や宮川系(1909)など早生(わせ)ウンシュウが育成され、多くの枝がわりや人工的な珠心胚実生(しゅしんはいみしょう)(珠心細胞から発生した種子の実生)から現れる変異個体の利用により、今日の多数の品種に分化し、もっとも重要な柑橘となった。また、ナツミカン(ナツダイダイ、ナツカン)は江戸中期1710年ころ山口県で発見され、酸が強いが、枝がわりの甘夏系は酸が少なく、甘い。これらのほか今日の市場でみられるサンポウカン(和歌山県)、ヒュウガナツ(別名ニューサマーオレンジ、宮崎県)、イヨカン(山口県)、ハッサク(広島県)などはいずれも日本で発見されたものである。また、唐代以前に、原産地揚子江上流から朝鮮半島経由で伝わったユズは耐寒性が強く、東北地方でも栽培され、日本料理にあうハナユ、スダチ、カボス、キズなどとして地方的に分化してきた。

 在来の柑橘類栽培のほか、外国からの新種の導入もあり、アメリカからはオワリウンシュウとクネンボに似たキングとの雑種といわれるカラマンダリンのような雑種の導入もある。ブラジルで1820年ころ枝がわりとしてみいだされたネーブルオレンジは、ワシントンを経てワシントンネーブルと改名され、1889年(明治22)に導入された。またポルトガル領アゾレス諸島で発見され、現在世界の諸方に広まり、世界一の生産高を誇るバレンシアオレンジは1903年に導入されたが、明治初年に導入されたレモン同様、環境があわず、栽培は増えていない。ただ、ユズ台に接いだジョッパの枝がわりといわれる福原オレンジは、果形不ぞろいではあるが日本でよく育つ。ポンカンは1896年に、ザボンの代表品種晩白柚(ばんぺいゆ)は1930年(昭和5)に導入され、鹿児島、高知県などの暖地で栽培されている。タンジェリン(マンダリンオレンジともいう)とグレープフルーツ(ポメロ)との雑種を、両者の折衷の名をつけてタンジェロとよび、この系統としてアメリカからミネオラ、オーランド、セミノールなどが導入されている。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

栽培

繁殖は接木による。種類により台木は異なるが、日本ではカラタチ台かユズ台が多い。カラタチ台では多数の細根が出、浅根性で苗の発育がよく、結実は早く、果実品質はよい。ユズ台は耐寒性、耐乾燥性ともに強く、深根性で初期生育は遅いが、旺盛(おうせい)な生育をする。これらのほか、スイートオレンジとカラタチの雑種であるシトレンジ、シトレンジにキンカンを交配したシトレンジカット、サンキツ、ナツミカン、スイートオレンジ、ヤマミカンなども台木とされる。主要病害には潰瘍(かいよう)病、痩果(そうか)病、黒点病、黄斑(おうはん)病、ウイルス病などのほか、貯蔵果を冒すアオカビ病などがある。害虫にはカイガラムシ類、ミカンコナジラミ、ダニ類、ジカキムシ、アブラムシ類、アゲハチョウ、ヤガなどがある。これらに対しては年間防除暦による防除を徹底し、チチュウカイミバエなどミバエ類や日本にないウイルス病などの伝播(でんぱ)の防止を図るには植物防疫の徹底が望ましい。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

生産流通

2016年の世界の主要柑橘類総生産量は1億4643万トンで、おもなものは、オレンジ類7318万7570トン、ミカン類3279万2530トン、レモンとライム1734万7153トン、グレープフルーツ類907万4176トンなどとなっている。国別では、中国3792万3800トン(25.9%)、ブラジル1959万1600トン(13.4%)、インド1204万3000トン(8.2%)、メキシコ811万トン(5.5%)、アメリカ751万4300トン(5.1%)、ついでスペイン、エジプト、トルコ、ナイジェリア、イランとなっている。アメリカはかつては第1位であったが、オレンジの生産が伸びず、順位を下げている。また、日本も300万トン以上を生産して上位にあったが、ミカンの減反などにより減少し、87万トン(0.6%)にとどまっている。各種類の生産量の推移をみると、1976年から2016年の40年間で、オレンジ類は2.2倍、ミカン類は中国、スペインなどの増産で4.3倍、レモンとライムは3.9倍というように大幅に増加、グレープフルーツ類は2.2倍となっている。2015年の日本の生産の内訳はミカン77万7800トン、シラヌヒ(デコポン)4万2150トン、イヨカン3万6800トン、ナツミカン3万6500トン、ハッサク3万6000トンなどとなっている。

 温州ミカン(通称ミカン)を中心とした日本の柑橘産地としては、年平均気温15℃以上の温暖な地方が望まれている。栽培は明治末期から大正時代の初期にかけて急増し、その後も増加しつつあったが第二次世界大戦で停滞した。戦後、生果および加工用の伸びと当時の高収益性により、傾斜地栽培に加え、平坦(へいたん)地栽培も行われ、1970年(昭和45)前後には18万5000ヘクタールに達し、新たに植えた苗木が生産樹齢に達した1975年にはミカンのみで366万5000トンに達し、価格は暴落した。以後、作付け減反が行われ、1982年には15万4980ヘクタール(ミカン81%、ナツミカン9%、ネーブルオレンジ3%、その他)となり、ミカンの生産も290万トン前後になってきた。その後も栽培面積は減少を続け、生産量も1991年(平成3)のオレンジの輸入自由化の影響もあって大幅に減少し、100万トン前後となっている。2015年の栽培面積は、ミカン4万2200ヘクタール、シラヌヒ2916ヘクタール、イヨカン2474ヘクタール、ナツミカン1725ヘクタール、ハッサク1668ヘクタールとなっている。ミカン産地は和歌山・愛媛・熊本・静岡県のほか瀬戸内、四国、九州の暖地である。1982年の生果実の輸出入では、ミカンは約2万4000トン輸出し、オレンジを8万2000トン、レモンとライム10万トン、グレープフルーツ15万4000トンを輸入した。ミカンの輸出は、その後、中国産やスペイン産の増加と円高の影響を受けて急減し、2006年は2710トンにとどまっている。2006年の輸入量は、オレンジ12万トン、レモンとライム7万5000トン、グレープフルーツ17万トンである。2017年では、ウンシュウミカンなどの輸出は約1500トンである。生鮮品と乾燥品を合計した輸入量は、オレンジは9万0600トン、レモンとライム5万3100トン、グレープフルーツ7万8100トン、マンダリンなど1万8800トンである。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

利用

柑橘類はいずれもビタミンCに富み、生果100グラム中で30~60ミリグラム、また果皮にはさらに多量のCを含み、キンカンでは70ミリグラムに達している。ビタミンAは果皮、果肉ともにカロチンとして多く含まれる。またビタミンB1、B2やニコチン酸も含まれている。このほかカルシウム、リン、鉄などの無機質もある。糖質は多く、グレープフルーツの8.9%、ネーブルオレンジの11.6%、ミカンの10.9%の示すように10%内外が多い。さらにクエン酸も多く、特殊な香りもある。果皮にはまたリモネン、ナリンギン、リナロール、ペクチン、その他の特殊成分が含まれている。したがって利用面も広く、多岐にわたる。諸成分から醸し出される爽快(そうかい)な味わいをもつ柑橘類は、生食のほか、ジュースとして利用され、とくにオレンジとグレープフルーツからは品質のよいジュースができる。温州ミカンジュースにオレンジジュースを加えると味が向上し、前者の利用価値が高まる。温州ミカンはシロップ漬けとしての用途も広い。また、レモン、ライム、ユズ、スダチ、カボスなどの果実の快い酸味と香りは調味料として利用され、クエン酸製造原料ともなる。レモン油、ライム油、ベルガモット油などの製油原料や、ザボン、シトロン、キンカンなどの砂糖漬け、ダイダイ、ナツミカン、オレンジなどのマーマレード、ライム、ナツミカンなどの果実酒、レモンパイなどの原料となる。レモンの枸櫞皮(くえんぴ)、ダイダイの橙皮(とうひ)、ミカンの陳皮(ちんぴ)などは、生薬(しょうやく)のほか調味料、香料にされ、ダイダイの花からネロリ油がとれる。暖地の街路樹、観賞用にも適する種類が多い。

[飯塚宗夫 2020年10月16日]

『岩堀修一・門屋一臣編『カンキツ総論』(1999・養賢堂)』


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百科事典マイペディア 「柑橘類」の意味・わかりやすい解説

柑橘類【かんきつるい】

ミカン科のミカン属,カラタチ属,キンカン属の総称。ミカン属には,果嚢が癒着(ゆちゃく)する傾向のあるレモン類(レモン,シトロン,ブッシュカン,ライム),ザボン類(ザボン,ブンタン,グレープフルーツ),ダイダイ類(ダイダイ,アマダイダイ),雑柑類(ナツミカン,イヨカン,ナルトミカン,ハッサク,サンポウカン,ヒュウガナツ)と,果嚢が互いに分離しやすいユズ,ウンシュウミカン類(ウンシュウミカン,クネンボ,キシュウミカン)があり,多くは寒さに弱く,年平均15℃以上の所で栽培される。
→関連項目そうか(瘡痂)病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「柑橘類」の意味・わかりやすい解説

柑橘類
かんきつるい
citrus

ミカン科ミカン属 Citrusに属する植物の総称。この属の果実はミカンにみられるような特徴のある液果をつけ,大部分は香気が高く美味で,果物として価値が高い。ミカンのほか,オレンジ,ユズ,ダイダイ,ウンシュウミカン,ナツミカン,ハッサク,ザボン,ヤマトタチバナ,レモン,ライム,グレープフルーツ,ネーブルオレンジ,ポンカン,シトロン (マルブシュカン) ,ブシュカンなどがある。暖地性の植物のため北方では育たない。

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栄養・生化学辞典 「柑橘類」の解説

柑橘類

 ミカン科の植物の総称.一般には食用になる果実や植物を指す場合が多い.

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