化学辞典 第2版 「ヤーン-テラー効果」の解説
ヤーン-テラー効果
ヤーンテラーコウカ
Jahn-Teller effect
高い対称性をもった核配置に対して分子の電子波動関数を求めると,電子状態が軌道的に縮退することがあり,そのような場合には,分子はいくらかひずんだ,より低い対称性をもつ核配置になって縮退が解けたほうがエネルギー的により安定となる.この理論的帰結にもとづく効果をヤーン-テラー効果といい,非直線状多原子分子の場合に起こる.直線分子では軸対称性を破るような変形では安定化されない.ヤーン-テラー効果は,ボルン-オッペンハイマー近似にもとづいて,問題の核配置の付近のいくつかの配置についてそれぞれ電子エネルギーを計算し,もっとも安定な配置を探すという方法でも検証することができる.このように,核の運動エネルギーを無視して説明できる場合を静的ヤーン-テラー効果という.これに対して,核の運動エネルギーが核配置の変形による準位の分裂に由来する安定化エネルギーと同程度の大きさである場合にはボルン-オッペンハイマー近似が成立せず,振動状態と電子状態との結合による効果が生じる.これを動的ヤーン-テラー効果という.また,R. Rennerは,直線分子のある種のπ状態が分子の屈曲による動的な効果によって二つに分裂することを示した.これをレナー効果という.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報