改訂新版 世界大百科事典 「ルスカヤプラウダ」の意味・わかりやすい解説
ルスカヤ・プラウダ
Russkaya pravda
ロシアの法典の名称で,二つのものが知られる。
(1)11~12世紀ロシアで制定された法令の集成《ルスカヤ・プラウダ》は,ロシア最古のもので,これには古い〈簡素編集〉(42ヵ条)と,これを修正し新しい多くの条項を追加した〈拡大編集〉(121ヵ条)とがある。〈簡素編集〉はさらに,ヤロスラフ賢公の時代(11世紀前半)に制定された〈ヤロスラフの法〉(〈最古のプラウダ〉)とその子らの時代(11世紀後半)の〈ヤロスラフの子らの法〉とに分けられる。〈拡大編集〉は,〈改訂されたヤロスラフの子らの法〉〈ウラジーミル・モノマフの法〉およびその他の法令に分けられる。〈ルスカヤ・プラウダ〉は,キエフ・ロシア社会経済史の第一級の基礎史料であるが,条文の表現が簡潔に過ぎ,また写本によって文章あるいは語句が異なるため(〈拡大編集〉の現存写本は100をこえ,大部分は15~17世紀の筆写),条文解釈をめぐる論争は今日でも続いている。《ルスカヤ・プラウダ》には,血讐が廃止されてビーラvira(人命金)支払にかえられていく過程,ベルビverv’(共同体)の健在を示す内容がはっきりと読み取れる。ゲルマン部族法と同様に,人命金は身分と地位によってその額を異にし,また身体傷害に対する罰則が詳しい。家畜などの財産侵害についても詳細に規定している。公,貴族,公の従臣などのほか,リュージlyudi(共同体員),スメルドsmerd(農民),ザークプzakup(債務奴隷的農民),ホロープ(奴隷)が登場してくる。この法典はその後のロシア,リトアニアにおける法典作成の典拠とされた。
(2)デカブリストの《ルスカヤ・プラウダ》は,1824年〈南方結社〉の指導者ペステリPavel Ivanovich Pestel’(1793-1826)の作成した憲法草案で,当面の目標として,専制政治の打倒と農奴制の廃止を唱える。私有地の存在と貧富の差を肯定し,貧民のために国有地の活用を予定している。10~15年の移行期の後に,全権力は男子普通選挙で選ばれる〈人民会議〉に移り,ここで執行機関としての10人の大臣を任命する。地方自治を尊重するとともに,民族問題にも特別な配慮をしている。
執筆者:石戸谷 重郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報