日本大百科全書(ニッポニカ) 「血讐」の意味・わかりやすい解説
血讐
けっしゅう
古代国家の形成過程に現れた復讐制度をいう。古ゲルマン社会において、氏族(ゲンス、ジッペ)の構成員が他の氏族の構成員から法益(生命、身体、財産、名誉)を侵害された場合、被害者の氏族の構成員には復讐の義務があった。氏族構成員が殺された場合、加害者の属する氏族のだれに対しても血の復讐をしなければならなかった。もともと復讐は、現行犯の場合は犯人自身に向けられたが、非現行犯、「一夜を超えて」犯行が発見されたときフェーデ(組織的復讐)が行われることになり、被害者の属する氏族の構成員は、自分の氏族の名誉を回復するため、加害者の属する氏族の構成員に対して復讐することができた。このような復讐は、氏族間の戦争状態を生み出すことになった。これは、人的消耗や外敵に対する防御力の低下をもたらしたので、やがて形式を踏んだ和解や、加害者を被害者側へ引き渡す方法が考え出されるようになった。しかし、加害者の被害者側への引渡しは、加害の程度の軽い場合でも殺害される場合があったので、思惟の合理化に伴いタリオ(同害報復)が行われるようになった。さらに氏族制度が崩れて世俗的国家権力のもとで刑罰制度が整備されるようになると、財産(家畜、金銭)で罪をあがなう制度が現れ、仲裁裁判で決められる人命金Wergeldや贖罪(しょくざい)金Bußeで責任を免れるようになり、加害者への血讐の制度は行われないようになった。
[佐藤篤士]