日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
れちふどらぶるとんぬ
Resti(Rétif)de la Bretonne
(1734―1806)
フランスの小説家。ブルゴーニュ地方の裕福な農家に生まれ、牧童生活を体験した。ジャンセニストの腹違いの兄の下での厳格な教育に耐えきれず、オーセル、パリで印刷工を経験したのち、小説を発表。出世作『堕落百姓』Le Paysan Perverti ou Les Danger de la Ville(1775)で作家的地位を確保した。それ以後、『父の生涯』(1779)、『南半球の発見』(1781)、『サラ』(1783)、『パリの夜』(1788~94)をはじめ、44編187巻の小説、ユートピア思想を精力的に著した。大革命期に破産するが、膨大な自伝小説『ムッシュー・ニコラ』Monsieur Nicolas ou le Cœur humain devoilé(1794~97)を発表するなど、執筆活動をやめなかった。レチフは自然主義の先駆ともルソーの弟子ともいわれるなど、長く誤解されてきたが、近年ほぼ正当に再評価されるに至った。現実の生のはかなさと死の想念から、仮構の現実と戯れつつ、内的時間に固執する優れて近代的な特徴を備えた、一種の全体小説の構築を目ざした作家と考えられる。
[植田祐次]
『植田祐次訳『パリの夜』(1969・現代思潮社)』