自然主義(読み)しぜんしゅぎ(英語表記)naturalism

翻訳|naturalism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

自然主義
しぜんしゅぎ
naturalism

現実のありのままを,まったく客観的な立場で観察し描写する芸術的態度や手法のことで,リアリズムの一種とみられる。文学では自然科学の発達による実験的手法を取入れて特殊な性格をもつものとなり,フランスにおいてフローベールのリアリズムとテーヌの実証主義に拠り,ゾラモーパッサンによって確立された。自然科学的な観察,実験の方法を用い,想像力を排して人間の生の実相に迫ろうとし,特にゾラにおいては,遺伝と環境による決定論的傾向が強い。日本では明治の後期に田山花袋徳田秋声,正宗白鳥らによる独自な自然主義文学がみられた。

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知恵蔵の解説

自然主義

リアリズム」のページをご覧ください。

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デジタル大辞泉の解説

しぜん‐しゅぎ【自然主義】

哲学で、自然を唯一の実在・原理として、精神現象を含む一切の現象を自然科学の方法で説明しようとする立場。
倫理学で、道徳に関する事象を本能・欲望・素質など人間の自然的要素に基づいて説明する立場。
文学で、理想化を行わず、醜悪なものを避けず、現実をありのままに描写しようとする立場。19世紀後半、自然科学の影響のもとにフランスを中心に興ったもので、人間を社会環境や生理学的根拠に条件づけられるものとしてとらえたゾラなどが代表的。日本では明治30年代にもたらされ、島崎藤村田山花袋徳田秋声正宗白鳥らが代表。→リアリズム文学
教育学で、人間の自然の性情を重んじ、その円満な発達を教育の目的とする立場。ルソーの提唱。
[補説]書名別項。→自然主義

しぜんしゅぎ【自然主義】[書名]

長谷川天渓の評論集。明治41年(1908)刊行

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百科事典マイペディアの解説

自然主義【しぜんしゅぎ】

最広義に自然的世界を自足した唯一の実在と考え,人間の精神現象を含めてすべてのものがその法則によって支配されているとする立場。一般には,フランス語naturalismeの訳として,19世紀後半のフランスに現れた文学運動をさす。遺伝や環境などの要素を重視し,現実を実証主義的,自然科学的方法で解明しようと試みたゾラを代表に,モーパッサンゴンクール兄弟,ドーデらの名があげられる。自然科学の進歩や産業革命の進行を時代背景として〈写実主義〉の延長上に現れ,ダーウィンベルナールらの著作や,実証主義思想の影響を受け,ときに醜悪な現実を描こうとした。ゾラの《実験小説論》や,6作家の小説集《メダンの夕べ》(1880年)はその理念を示すものといえる。自然主義は各国の小説,戯曲にもみられるが,日本では,1890年ごろゾラの理論が紹介され,島崎藤村の《破戒》(1906年)が自然主義作品と呼ばれた。田山花袋や《早稲田文学》の作家らがこれに続いたが,自己の内面をありのままに告白することに主眼が置かれた点に特色がある。これは西欧語の〈nature〉と日本語の〈自然〉との本来的な意味のずれによるものとも考えられる。日本の自然主義は運動としては急速に衰えたが,私小説心境小説の誕生に大きな影響を与えた。
→関連項目アホヰタ・セクスアリス伊藤信吉田舎教師岩野泡鳴オニール女の一生片上伸感情(雑誌)近代劇国木田独歩言文一致告白録後藤宙外佐藤紅緑島村抱月縮図(文学)新潮新ロマン主義ズーダーマン相馬御風太陽田中王堂ダンヌンツィオ徳田秋声ハウプトマン破戒長谷川天渓バルビュスバルベー・ドールビイフローベール文章世界ベックベネットベリズモポントピダン正宗白鳥真山青果ムーア森田草平ユイスマンスルーゴン・マッカールロスタンロダン若山牧水早稲田派

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世界大百科事典 第2版の解説

しぜんしゅぎ【自然主義 naturalisme[フランス]】

一般には文芸用語として,19世紀後半,フランスにあらわれて各国にひろまった文学思想,およびその思想に立脚した流派の文学運動を指す。ナチュラリスムという原語は,古くは哲学用語として,いっさいをナチュールnature(自然)に帰し,これを超えるものの存在を認めない一種の唯物論的ないし汎神論的な立場を意味していたが,博物学者を意味するナチュラリストnaturalisteという表現や,自然の忠実な模写を重んずる態度をナチュラリスムと呼ぶ美術用語など,いくつかの言葉の意味が重なり合って影響し,文学における一主義を指す新しい意味を獲得するにいたった。

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大辞林 第三版の解説

しぜんしゅぎ【自然主義】

〘哲〙 存在や価値の根本に自然を考える立場の総称。一般に、超自然的なもの(理想・規範・超越者など)の独自性を認めず、自然的なもの(物質・感覚・衝動・生命など)を基盤にして物事をとらえる。
倫理学で、善や規範を超越的な原理からではなく、感覚的経験から導出する説。また、内的あるいは外的自然に即した生活を旨とする主義。
宗教上では、「神即自然」というスピノザの思想のような汎神はんしん論にほぼ同じ。
一九世紀後半に興った文芸思潮。観察を標榜する近代のリアリズム(写実主義)の延長上に、これを科学的に徹底し、理想化を排し人間の生の醜悪・瑣末さまつな相までをも描出する。フランスのゾラ・モーパッサンなどが代表。この影響のもとに、日本では明治後期に島崎藤村・田山花袋などが輩出した。
美術で、自然の事物を忠実に再現しようとする作画態度。古典ギリシャの美術などにもみられるが、特に一七世紀イタリアのカラバッジョやその後継者たち、さらには一九世紀中頃のテオドール=ルソーらバルビゾン派や一九世紀後半のクールベらの写実主義をさす。

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精選版 日本国語大辞典の解説

しぜん‐しゅぎ【自然主義】

〘名〙
① 哲学で、自然をただひとつの実在とみなして、精神現象をも含めて一切の現象を自然の産物と考え、自然科学の方法で説明しようとする立場。〔普通術語辞彙(1905)〕
② 倫理学で、道徳現象を人間の本能、欲望、素質などの自然的要素に基づいて説明する立場。また、そこから道徳をうちたてようとする立場をいう。イギリスの哲学者ハーバート=スペンサーの進化論的倫理学の類。
③ 美学で、自然のありのままの美しさや個性を再現することを芸術の目的とする考え方。
※柵草紙の山房論文(1891‐92)〈森鴎外〉逍遙子の諸評語「ハルトマンは〈略〉嘗て美術の革命を説いていはく、革命者実際主義といひ、自然主義といふものを奉ずるは、其仮面のみ」
④ 文学で、人間の生態や社会生活を直視して分析し、ありのままの現実を直視して、醜悪なものを避けず理想化を行なわないで描写することを本旨とする思潮。自然科学の隆盛に刺激されて、一九世紀末にフランスのゾラを中心として起こり、モーパッサン、ゴンクール兄弟、ドーデらにうけつがれた。日本には明治後期に伝わり、自己の内面的心理や動物的側面をありのままに告白したり、また、平凡な人生をあるがままに描写したりする行き方をとるに至った。代表的作家は田山花袋、島崎藤村、岩野泡鳴、徳田秋声、正宗白鳥など。
※平凡(1907)〈二葉亭四迷〉二「近頃は自然主義とか云って、何でも作者の経験した愚にも付かぬ事を」
⑤ 教育で、人間の自然の性情を重んじ、社会的な慣習や観念を押しつけることなく子どもを発達させようとする立場。〔普通術語辞彙(1905)〕

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世界大百科事典内の自然主義の言及

【写実主義】より

…しかし,ロマン主義に代わって写実主義こそが時代の文学的潮流となったことを決定的に印象づけたのは,フローベールの小説《ボバリー夫人》(1857)である。フローベール自身は写実主義派の文学理論や実作に強い嫌悪の念を抱いていたにもかかわらず,《ボバリー夫人》以下の諸作によって,この作家は写実主義文学の真の巨匠とみなされるに至り,後の自然主義の作家たちからも先駆者と仰がれることになった。同じ時期,ゴンクール兄弟は,事実の記録と文献資料によって小説の客観性をつらぬきながら,きわめて技巧的な文体を駆使して,多くは病理学的な異常性を持った人間像を描きだし,独特の写実主義小説を作りだした。…

【日本文学】より

…その例外を除けば,構造的な作品は,外国文学の〈モデル〉に忠実な作品であり,たとえば儒者の〈文〉や,森鷗外,夏目漱石,芥川竜之介の小説である。いわゆる〈自然主義〉の小説家たちは,みずからゾラやモーパッサンの範に従うつもりでいたが,フランス人の作品のうちに,小説の全体の構成だけは,けっして読みとらなかった。それを読みとるためには,単なる技法上の問題を超えて,それぞれの国語の構造と世界解釈の基本的な態度のちがいを,見破らなければならなかったろう。…

【歴史学派】より

…一言でいうとロマン主義の反理性主義は時間,空間における個性の重視,その意味での反普遍主義として現れ,初期ロマン主義者のJ.メーザーはロマン主義のこの傾向を典型的に示している。 ところでロマン主義は反理性主義の立場とともに,反自然主義,反自然法の立場をとり,主として後者を通して歴史的方法としての歴史主義に結びつく。自然主義もやはり一種の普遍主義であるが,しかしここにいう〈普遍〉性は理性主義のそれとは多少異なっている。…

【歴史主義】より

…歴史主義という語は非常に多義的に用いられ,一定の定義を与えることは困難であるが,共通している点は,人間生活のあらゆる現象はすべて個別具体的な歴史的時空において発生し継続し消滅するものであるから,物理的時間・空間概念とは別の歴史的流れのなかにおいてその生成と発展とをとらえなければならない,という主張である。 自然的宇宙はすべて一様であって画一的な法則によって支配されているものであるから,自然の一部である人間や社会もこのような見地から説明されなければならないという考え方に立った〈自然主義naturalism〉に対して,人間と文化と社会とは能動的で主体的なものであるから単なる自然現象とはみなすことはできず,具体的な歴史的場面と関連させて人間的出来事の価値と意味を解明しなければならないとする〈歴史主義〉は遠く古代ギリシアの時代からあったが,今日において歴史主義と呼ばれている考えと立場は19世紀に生まれた。フランス革命を準備した啓蒙的合理主義思想は,自然も人間も社会も合理的なものであって道理に合わぬものはあってはならず,不合理な旧体制を破壊して合理的につくり変えることができる体制を生みだすべきであると説いた。…

※「自然主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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