日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロング・テール」の意味・わかりやすい解説
ロング・テール
ろんぐてーる
long tail
アメリカの雑誌ワイアード・マガジンWired Magazineの編集長であったクリス・アンダーソンChris Anderson(1961― )が、2004年にデジタル時代のインターネット・ビジネスの特性を説明するために提唱したマーケティング理論。インターネット・ショップでは、売上数の少ない商品でも種類が数多くそろえれば、大きな売上げにつながるという経済理論である。縦軸を販売量、横軸を商品名としたグラフをつくり、販売量が多い順に並べると、急激に落ち込んだ曲線が右側に長い線を描く。これは、売上げの少ない商品の方が数量的には多いということを表しているが、この右側の線がロング・テール(長いしっぽ)にみえるため、この理論に「ロング・テール」の名がついた。
デジタルによらない従来のマーケティング理論では、上位20%の商品が売上げの80%を占めるとされ、売れ筋商品20%以外はあえて軽視することが全体の販売効率を高めることにつながっていた。この典型的な適用例はコンビニエンスストアの店頭販売などである。
一方、デジタル経済のマーケティング理論では、在庫・流通コストが限りなく低廉なため、下位80%のあまり売れないといわれていた商品であっても多品種を販売することで、大きな売上げを生み出すことができるとされている。在庫・流通コストの問題のみならず、消費者が自分に必要なものを検索技術によって膨大な量の商品群のなかから探し出すことができるようになったことも、この理論を成立させている重要なポイントである。
ロングテール理論が適用される典型的な例はインターネットの書店であるアマゾン・ドット・コムAmazon.com(日本向けサービスはamazon.co.jp)である。書籍や音楽CDのように多品種で、消費者の好みによっていつ売れるかわからないものを書店等が店頭で在庫することは非常にコストがかかり、消費者も探し出すことは困難である。しかし、インターネット上の書店であれば、在庫コストもかからず、また消費者も簡単に探し出すことができるため、売れ筋でないような商品が多品種で販売され大きな売上げを構成している。
[中島由弘]
『クリス・アンダーソン著、篠森ゆりこ訳『ロングテール――「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(2006・早川書房)』▽『菅谷義博著『80対20の法則を覆すロングテールの法則』(2006・東洋経済新報社)』▽『菅谷義博著『続 80対20の法則を覆すロングテール戦略』(2007・東洋経済新報社)』▽『Chris AndersonThe Long tail(in “Wired”, October 2004)』