日本大百科全書(ニッポニカ) 「わらしべ長者」の意味・わかりやすい解説
わらしべ長者
わらしべちょうじゃ
昔話。思いがけない交換によって利益を得ることを主題にした致富譚(ちふたん)の一つ。兄が遺産を相続し、弟はわらしべ(藁(わら)の茎)3本をもらう。弟は旅に出て、下駄(げた)の緒を切って困っている女に藁をやり、三年味噌(みそ)をもらう。刀鍛冶(かじ)が刀をつくるのに必要だというので、三年味噌をやり刀をもらう。その刀でオオカミを防ぐ。それを見ていた男に雇われ、のちに長者になる。沖縄県では、琉球(りゅうきゅう)の第四王統を開いた尚巴志(しょうはし)の生い立ちの物語になっている。平安後期の『今昔物語集』には、長谷観音(はせかんのん)の利生(りしょう)譚としてみえている。最初に手に入ったものをたいせつにせよという仏の告げに従い、つまずいたとき手につかんだ藁に、飛んできたアブをとらえてくくり付け、それからミカン、布、馬、田と交換して富む話である。同じ話は『宇治拾遺(しゅうい)物語』『古本説話集』にも記されている。おそらく寺僧の説経の素材に用いられたものであろう。無住(むじゅう)法師の『雑談(ぞうたん)集』では、また別の長谷観音の物語になっている。朝鮮には、日本のように、善意の交換で富む型のほか、預けておいたものがなくなった代償として、もっと高価なものを得る型の類話もある。この型の例は、インドネシア、ミャンマー(ビルマ)のシャン人、インドから西アジアを経てヨーロッパに広く分布しているが、インドのサンスクリット文学の『カター・サリット・サーガラ』は交換型の例である。朝鮮、日本へは仏教文学を介して広まったものであろう。
[小島瓔]