刀をつくる専門職人。刀工、刀匠(とうしょう)ともいう。13世紀の鎌倉期にはその需要に応じて一般の鍛冶から分化していた。原料の砂鉄の産地に制約されてはいたが、奈良、京都、鎌倉をはじめ関(岐阜県)、福岡、吉岡、長船(おさふね)(いずれも岡山県)といった生産地ができて、刀鍛冶の拠点となった。そこでは集団生産が行われていた。15世紀の室町期には、さらに新しい生産地も生まれ、数打ちといった大量生産も始まったので、品質は落ちてきた。
17世紀の江戸期からは、武士層の居住地としての城下町で個別に生産するようになり、かつての集団生産ではなくなってきた。しかし、伝統技術を守る一方に、砂鉄にかわる新しい鉄材の使用によって新しい折り返しという鍛錬(たんれん)法をとるようになった。原料の鉄材も砂鉄から精錬しなくても、精錬された玉鋼(たまはがね)とか輸入の南蛮(なんばん)鉄などを利用するようになっていた。道具は、一般の鍛冶と同様で、金槌(かなづち)と金床(かなとこ)(金敷)と金箸(かねばし)(やっとこ)とふいごであった。ことにふいごは効率的なポンプ仕掛けの箱ふいごが用いられてきた。武器である刀の需要はそれぞれの時代の社会・政治情勢によって高低がみられ、したがって刀鍛冶にも盛衰があった。また、名工と伝えられる刀鍛冶も多くあったが、伝記の明らかなものは少ない。13世紀後半、京都の粟田口吉光(あわたぐちよしみつ)、鎌倉の岡崎正宗(まさむね)は優れた刀鍛冶として知られている。17世紀前半には京都の埋忠明寿(うめただみょうじゅ)が新しい技法をくふうして新刀の祖とされ、19世紀前半には、江戸の水心子正秀(すいしんしまさひで)が古い技術の復興に努力して新時代をつくった。しかし、今日では刀の実用的な役割は少なくなり、限られた存在となりつつある。
[遠藤元男]
刀を鍛える工匠。刀匠,刀工などともいう。鍛冶(鍛冶屋)はもともと鋳物師らをも含む金属加工者を指し,製鉄に従事するものを大鍛冶というのに対し,刀鍛冶を小鍛冶と称している。古くは,この両者は兼業していたものであろう。刀鍛冶は,原料鉄の鍛錬から焼入れ,仕上げまでをその業とする。《古事記》《日本書紀》などに日本最初の鍛冶としてあらわれるのが天目一箇神(あめのまひとつのかみ),一名天津麻羅(あまつまら)で,鍛冶の祖神といわれている。その子孫は倭鍛冶(やまとかぬち)として代々朝廷に仕えたといい,綏靖(すいぜい)天皇は天津真浦に鏃を,崇神(すじん)天皇は天目一箇神の後裔に神剣を造らせたと伝えている。また応神天皇のとき,百済から学者和邇(わに)とともに韓鍛(からかぬち)卓素(たくそ)が来朝し(《古事記》),この帰化系の鍛冶を倭鍛冶に対し韓鍛冶と称している。各地の後期古墳から刀剣類の出土例があり,奈良時代には鍛冶は全国的に存在したと思われる。《延喜式》兵部省中の毎年所造の諸国器仗の大刀(たち)は最多で20口,最少でも2口で計522口を数え,その造営は五畿七道の諸国にわたっている。しかし,上古の刀剣の作者については〈大宝令〉のときから〈年月及工匠姓名を鐫る〉とされているものの,正倉院に伝存する55口の大刀をはじめ,伝世,出土に限らず記銘されているものは見られない。刀工の名が現存する作刀に見られるのは,反りがつき完成された日本刀の現れた平安時代中期以降である。987年(永延1)ころという伯耆(ほうき)安綱,山城宗近などが古く,次いで備前友成,正恒,備中守次,筑後光世,薩摩行安などが知られている。鎌倉時代に入ると,それぞれ流派を形成して特徴ある作風を展開していった。とくに山城,大和,備前は平安時代以来の生産地で,これに鎌倉末期以降栄えた相模,南北朝時代におこり室町末期には最大の生産地となった美濃を加えた5国は刀工の数も多い。しかし,桃山時代になると刀工の分布状態は一変し,新たに発展した城下町や商業都市に刀工は集まり,藩の抱え鍛冶として禄を与えられた刀工も現れた。将軍家の下坂康継,仙台伊達家の国包(くにかね),加賀前田家の兼若,安芸浅野家の輝広,肥前鍋島家の忠吉はその代表的な刀工であり,幕末まで代々その名跡と技術を継承している。1876年の廃刀令により刀鍛冶の歴史は閉じるが,その間,刀工の数は2万4000に達するという。現在では作刀は文化庁の承認制がとられている。
→日本刀
執筆者:原田 一敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…武器として最もたいせつなものはいうまでもなく刀剣である。この時期から刀剣の鍛造技術が急速に発達し,やがて〈五箇伝〉といわれる,大和・山城・備前・美濃・相模といった,刀鍛冶の集中地,すぐれた刀剣の生産地を生ずるようにもなる。次いで戦国時代になると,鉄砲が作られるようになり,刀鍛冶に対して鉄砲鍛冶という専門職も生ずるようになった。…
※「刀鍛冶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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